1980年初頭のシチリアでは、マフィアの全面戦争が激化していた。パレルモ派のトンマーゾ・ブシェッタ(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)はブラジルに逃れるが、仲間や家族は次々と敵対するコルリオーネ派に殺されていく。ブラジルで逮捕されイタリアに引き渡されたブシェッタは、ファルコーネ判事から捜査への協力を求められる。監督はマルコ・ベロッキオ。実在したマフィアの一大摘発事件をドラマ化した作品。
 俳優たちの面構えにアクがあり、映像も色彩鮮やかでテンポよくエネルギッシュ。冒頭の死人カウント表示も抗争の規模が一目でわかり景気がいい。ベロッキオ監督は既には80歳越えていたと思うが、元気だなー。なかなかのくどさだった。
 シチリアはイタリアの中でも大分独特な土地柄なのだろうか。どうもかなり方言がきついらしいというだけでなく、1980年代の話ではあるが、更にひと昔前の世界みたいだ。法律と行政ではなく、マフィア同士の関係とローカルルールが支配する世界なのだ。法を守る側に協力したブシェッタは激しいバッシングを受け、地元では「雇用を守るマフィアを守れ!」というデモが起きていたりする。マフィアが経済を回す、犯罪が一大産業になっているのだ。そんな世界ではブシェッタは組織だけではなく土地全体に対しての裏切り者、卑怯者ということになる。このあたりの過剰な地元愛は外様から見るとなんとも不思議。ブシェッタと他のマフィアたちは双方卑怯者、裏切り者(ブシェッタからすると昔からのルールを無視し私欲に走ったマフィアたちは裏切り者というわけ)とののしりあうが、いずれにせよどちらも犯罪で飯を食っているわけで、どっちもどっちな気がしなくもなかったが…。その文化の中にいないとわからない理屈があるんだろうなという異文化を垣間見るような作品だった。
 異文化と言えば、本作で行われる裁判は、私が映画やTVドラマで見知ってきたものとは大分様相が違う。証人であるブシェッタと被告であるマフィアがその場で直接「対決」を出来る、更に他の被告(マフィア組織を摘発したので被告が大勢いる)もギャラリーとして待機しておりやんやと野次を浴びせることができるという、見世物的な状況だった。ブシェッタと「対決」相手も裁判官そっちのけで罵倒しあい、弁護士が介入する余地がない。具体的な証拠や証言の裏付け等は一切出てこない(実際の裁判ではあったのだろうが、作中には出てこない)ので、これは一体何を見せられているんだ…と謎の時間が流れた。

夜よ、こんにちは [DVD]
ジョヴァンニ・カルカーニョ
スタイルジャム
2007-01-12