フィン・ベル著、足立眞弓訳
 フィン・ベルはニュージーランドの南の断崖で、車いすごと宙づりになっていた。ことの起こりは「数カ月前。酒におぼれた末、交通事故で車いす生活になり、妻とも別れたフィンは、田舎町にコテージを買い移り住んだ。26年前、コテージの前の持ち主の娘が行方不明になるという未解決事件が起きていた。隣にすむ三兄弟の関与を疑ったフィンは、当時のことを調べ始めたのだが。
 出版元(東京創元社)がやたらと持ち上げるし各所絶賛!とぶち上げてくるので逆に疑いの目で見てしまっていたのだが、確かに面白い。私はいわゆるノンストップサスペンスが苦手なのだが、本作はそれとはちょっと違う。帯の「1ページ目から主人公が絶体絶命!」という文句は確かにその通りなのだが、本作の面白さのポイントはそこではないのだ。フィンがこういう状況に至るまでの数か月間をカウントダウンのように描いていくが、意外と早い段階で伏線が張られていたり、後から振り返るとなるほどなというミスリードが設定されていたりと、ミステリとしては勢い任せではなく結構きちんと展開している。また、ニュージーランドの風土や歴史にまつわる要素が多く盛り込まれていて、ご当地ミステリ的な面白さも。恥ずかしながらアフリカ系移民が多い(というかそもそも移民が多い)ことを初めて知りました。
 本作には非常に悪い奴らが出てくるが、悪の在り方が興味深い。社会の枠組みの上にある悪と、それを全く無視した俺ルールの悪があるのだ。どちらもお近づきにはなりたくないが、社会的な損得概念を持たない悪の方が厄介かな。

死んだレモン (創元推理文庫)
フィン・ベル
東京創元社
2020-07-30


アニマル・キングダム [DVD]
ルーク・フォード
トランスフォーマー
2012-09-07