ドン・ウィンズロウ著、田口俊樹訳
 ニューオリンズ市警の麻薬班を率いる腕利き警官のジミーは、ある手入れを一網打尽にする。しかしその報復に弟を惨殺され、復讐鬼と化す(「壊れた世界の者たちよ」)。チンパンジーが銃を奪って動物園から脱走する「サンディエゴ動物園」、かつてはカリスマ的サーファーだった逃亡犯をかつて彼に憧れた探偵が追う「サンセット」等、6篇を収録した中篇集。
 収録1作目の表題作と最後に収録された「ラスト・ライド」が対になり、その間に軽めの作品が配置されている構成。「壊れた世界の者たちよ」は麻薬抗争、「ラスト・ライド」は移民問題という今のアメリカを象徴する、かつ著者の最近の重厚なテーマの流れに連なる作品だ。そして、どちらも方向性は違うが「それをやったからといってどうにもならない、しかしやらないと自分でいられない」という状況が描かれる。「壊れた~」のジミーは弟の仇を討つため仲間の警官も巻き込み壮絶な復讐劇を開始するが、大きな犠牲を払うことになり、かつ弟の命が戻るわけではない。更にジミーや母親にとっては更に人生を損ねることにもなりかねない。しかし復讐せずにはいられないのだ。一方、「ラスト・ライド」は不法移民の少女を親元に送り届けようとする男キャルの話。様々な面でアメリカの端っこ、どん詰まりの状況が背景にある。少女1人を送り届けても根本的な問題は解決せず、キャルが置かれた状況はおそらく悪化する。それでも正しいと思ったことをやらねば彼の魂は更に損なわれるだろう。2篇どちらも出口がない局面を描くが、「ラスト・ライド」の方が正しいと思われることに対する「でもやるんだよ」精神があり多少救いがあるか。
 個人的な好みとしては軽妙なクライムドラマ「犯罪心得一の一」がよかった。私もスティーヴ・マックイーン主演作なら『ブリット』が好き。また「サンディエゴ動物」がエルモア・レナードへ、「サンセット」がレイモンド・チャンドラーへ捧げられているのは納得。それぞれの作家のトーンを踏まえた作品になっている。「サンセット」の逃げる男がテリーというのは、そういうことだよなあ。
 なお、「サンセット」「パラダイス」には著者の過去作品に出てきた人たちが再登場する。お前生きていたのかー!よかったなー!と同窓会的な気分になる。ウィンズロウユニバース的な遊び心のある作品だった。ただ、全体的に文体のスタイルが気取りすぎ、かっこつけすぎになってきている気がして、少々気になった。そこまで文体に特化したタイプの作家ではないと思うので。

壊れた世界の者たちよ (ハーパーBOOKS)
ドン ウィンズロウ
ハーパーコリンズ・ジャパン
2020-07-17



ストリート・キッズ (創元推理文庫)
ドン ウィンズロウ
東京創元社
1993-11-12