ハン・ガン著、斎藤真理子訳
 あなたの脚には穴がある。火傷が細菌感染を起こして深い傷になったのだ。その発端は姉の葬儀で脚をくじいたことだった。あなたと姉はずっと疎遠だった(「回復する人間」)。画家である私は事故によって手が不自由になり、作品製作ができなくなる。日常生活もおぼつかなくなり気力を失った私に、やさしかった夫はいら立ちを隠せなくなっていく。ある日、学生時代の友人が遊びにこないかと電話をかけてきた(「火とかげ」)。傷を抱えてままならない人生を生きる人たちを描く作品集。
 本著の題名にもなっている「回復する人間」という言葉は、著者の作品全体を象徴するようでもある。何らかの傷や、現在あるいは過去の痛みを抱えた人間の姿が描かれていることが多いように思う。「回復する」というのは少々うらはらというか、そのままポジティブな方向性というわけではなく、当人にその気がないのに「回復してしまう」人間の特性を表しているようにも思う。表題作の「あなた」は肉体的には脚の傷が順調に回復していくが、必ずしも精神的に回復しているというわけではない。姉の死は彼女に消えない傷を残すだろう。姉との関係が何だったのか、2人がなぜ疎遠になり姉が彼女を愛さなかったのか、今となってはもう知る手段がないということがまた、その傷を消えないものにしていく。職場の先輩だった女性を描く「明るくなる前に」は、表題作の変奏曲にも思えた。こちらは相手との間に深く通うものがある(それが間に合わなかったとしても)話だが、誰かの人生と自分の人生との関わりがはっと見える時があるのだ。「そんなふうに生きないで」という言葉が実際は発せられなかったとしても、そう思えるくらいに相手に近付いたことに心を打たれる。

回復する人間 (エクス・リブリス)
ハン・ガン
白水社
2019-05-28


そっと 静かに (新しい韓国の文学)
ガン, ハン
クオン
2018-06-25