刑務所から出所したばかりの殺人犯K.(アーウィン・レダー)は、新たな犠牲者を求めてさまよっていた。大きな庭に囲まれ、周囲に民家のない屋敷に狙いを定めたK.は、その屋敷に暮らす一家が帰宅するのを待ち構えて犯行に及ぶ。1980年にオーストリアで実際に起きた、殺人鬼ベルナー・クニーセクによる一家惨殺事件を元にした作品。監督はジェラルド・カーグル。
 1983年に制作されて以来オーストリアでは長年放映禁止になっていたそうだが、この度なぜか日本で劇場初公開された。相当猟奇的らしいしショッキングな描写が多いから心臓の弱い人は注意!という事前のお知らせもあったし、普段こういった作品はあまり見ないので、見るかどうか迷った。しかし撮影を短編『タンゴ』(偏執的かつ珍妙で素晴らしい)のズビグニェフ・リプチンスキが担当したというので、どうしても気になって見に行ってみた。
 で、実際に見てみると、危惧していたほどえぐくはなかった。確かに残酷なシーンはあるのだが、むしろ非常に冷徹で残酷さに酔うようなナルシズムは薄い。主人公であるK.のモノローグにより、あくまでシリアルキラー目線で進行する。彼の行動原理や殺人の動機に安易な理由付けをせず、「共感させない」「わからせない」という姿勢に徹した演出だ。それが対象との距離感を保つ冷静さを生んでおり、かつわからなさによる怖さが強調される。
 K.の犯行にはある程度の計画性と狡猾さがあるが、どう考えてもそれは理屈に合わないな?!とか、自分の首を絞めているよな?!と言いたくなるわきの甘さや衝動性も強い。自分をコントロールできる部分と出来ない部分の落差が激しいのだ。K.は殺人により快楽を得るシリアルキラーだが、得られる快楽に対する殺人と言う行為のコストパフォーマンスはものすごく悪そうに見える。殺人は重労働かつ高リスクでロマンとは程遠い。それをわざわざやってしまう心境の不可解さ、怖さが際立っていた。
 ユニークなショットが多く、撮影の面白さが味わえる作品だった。移動するK.を間近から追うショットは、カメラが並走しているというよりも、俳優自体にカメラを取り付けて一緒に移動しているみたいに見えるなと思っていたら、本当に俳優にカメラを取り付けた器具を背負わせていたそうだ。

屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ(字幕版)
グレタ・ゾフィー・シュミット
2020-06-17