凱里市の小さな診療所で、老齢の医者を手伝いひっそりと暮らすチェン(チェン・ヨンジン)。彼は服役していた時期があり、出所した時には妻はこの世にいなかった。また故郷の弟とも折り合いが悪く、可愛がっていた甥は弟の意向で他所にやられていた。甥を連れ戻し、医者のかつての恋人に思い出の品を渡すためにチェンは旅に出る。たどり着いたのはダンマイという小さな町だった。監督・脚本はビー・ガン。
 『ロング・デイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』が鮮烈だったビー・ガンの長編監督デビュー作。しかし本作品の構造は『ロング~』をほぼ同じで、本作が『ロング~』の原型である、ないしはビー・ガン監督にとっての物語の一つの原型がこういうものだということがわかる。自分の記憶の中のある人、もしかしたら自分のイメージの中にしか存在しない人を探して旅をする。その中で自分が自分の、あるいは誰かの記憶・イメージの中に突入していくような、入れ子構造が開始するような瞬間がある。『ロング~』では幻想的な長尺長回しシーンのインパクトが鮮烈だったが、本作でもそこそこの長回しが使われている。本作の方が地に足がついている(とうか手作り感の強い)が、町の地形を利用した視界の変わり方が新鮮で楽しかった。低予算故の面白さ(ここは所要時間を何度も確認したんだろうなーと感慨深くなるような)みたいなものを感じた。
 チェンの旅路に明確な答えは出ない。弟や甥との関係も、医者の恋人の思い出も「落ち」はつかずに漂い続ける。どこか夢の中の出来事のようでもあり、なんだかおぼつかない。チェンは誰かに会うために移動し続けるのだが、移動の目的よりも、この移動という動きそのものの方が「今ここにある」といった手応えを感じられる。景色が変わっていくのが気持ちよく、特に終盤の列車に乗っているシーンには、ああこの感じ!(自分にとって列車に乗って長距離移動する機会がとんとなくなっているのも一因かと思うが)と強烈ななつかしさを感じた。


薄氷の殺人
グイ・ルンメイ