スコットランド、グラスゴーに暮らすシングルマザーのローズ(ジェシー・バックリー)は、カントリー歌手として本場アメリカ、ナッシュビルに行くことを諦められずにいる。彼女の強い思いは、時に母親や幼い2人の子供を傷つけてしまう。大きなチャンスを目の前にしたローズは思い悩む。監督はトム・ハーパー。
 ローズが刑務所から出所するところから始まるので、えっそういう話なの?!と少々びっくりするけど、その後披露される彼女の喧嘩っ早さや歌うことに対する衝動の強さ、動物的とも言える行動原理は、確かにトラブルを招きやすいだろうなとわかってくる。一方で、久々にクラブのステージに立ったローズのパフォーマンスからは、歌声にもキャラクターにも人を引き付ける個性があることがわかる(バックリーの歌唱がすごくいい!ちょっと野太い感じにぐっときた)。
 ローズにとって歌うことは生きることにも等しいが、それゆえに歌うことと生活の両立しなさが苦しい。経済的にはもちろんだが、子供たちを最優先に出来ない苦しさがきつい。自分の母親に任せっきりだったとは言え、ローズは子供たちを愛しており、やろうと思えば「ちゃんとした母親」をやれる力もある(一念発起してからの部屋の整い方は、家事全般基本的にできる人のものだよな…)。しかし、それをやり続けると彼女が本来生きたい道は閉ざされていく。ただ、母親が「責任を持ってほしかったけど希望を奪うつもりはなかった」と言うように、両方あっていいのだ。
 本作、困難な状況にあるヒロインがハードルを越えて夢を掴もうとするという古典的なストーリーだが、ちょっと新しい、「今」の作品だなと思う点がいくつかあった。この責任と希望と両方正しいという点もその一つ。あれかこれか、ではなく、何とかして両方それなりに成立させていくことが是とされる。また、夢を追うというと故郷・家族を捨てるというイメージがあるが、そこも別に捨てなくていいのでは?と提示される。ローズはちょっとレトロなところがあって、カントリーをやるならナッシュビルに行かないとならない(まあグラスゴーでカントリーというのはかなり変わっているんだろうけど…)、有名になるにはラジオ局に手紙を出し続けなければならない、と思い込んでいる節があるが、それこそ「メールを出す」ことだって出来る。夢のかなえ方、生き方が一様ではなくなっているし、あれかこれかの二択の世界ではなくなっているんだ、色々やれるんだという話にも思えた。
 なお、シンデレラガール的なお話だと、ヒロインを引っ張り上げる男性が往々にして登場するが、本作でローズを助ける、あるいは反発するのはほとんど女性。ボーイフレンドらしき男性は出てくるが、ほぼセックスのみだし、あこがれのDJもアドバイスをくれた程度。具体的な助けになるのは母親であったり、ご近所の女性であったり、仕事先の女性であったりする。これもまた現代的かなと思った。

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