大きな屋敷に一人で暮らすクレール(カトリーヌ・ドヌーブ)は、長年集めてきたアンティークをヤードセールで売り始める。意識や記憶がおぼろげになることが増え、人生の幕引きを決意したのだ。彼女の奇妙な行動を知った娘のマルティーヌ(キアラ・マストロヤンニ)は疎遠になっていた実家を訪れる。監督はジュリー・ベルトゥチェリ。
 冒頭、夜の子供部屋で幼少期のマルティーヌが寝付けずにいる、一方で若き日の母クレール(アリス・タグリオーニ)は身支度をしている。子供の世界と大人の世界の境界を感じさせる構造と色味の美しさで引き込まれた。クレールの屋敷の内装や登場するアンティークの数々も美しい。ドヌーブとマストロヤンニという実の母娘共演が話題の作品だが、むしろ美術面に目がいった。
 クレールとマルティーヌは実の親子ではあるが疎遠。過去のある事件が大きな要因ではあるのだが、元々この2人は人との距離の取り方や情愛の示し方が違うタイプなのだろう。少女時代のマルティーヌがクレールに甘えてもたれかかるシーンがあるのだが、クレールは「痛い」と言ってどかせる。大人になったマルティーヌに対しても(けがをしているとは言え)抱きしめられて「痛い」と言う。娘に対する愛情がないわけではないが、マルティーヌが望む形では差し出せない。マルティーヌの愛の示し方はクレールには少し重いのだろう。誰が悪いというわけではなくそういう人同士の組み合わせになってしまったということなのだ。実の親子であってもこのミスマッチは如何ともしがたい。このギャップが地味に堪える。2人の関係は基本的には変わらないしお互いが満足するようなものにはならない。ほんちょっとだけ許せるようになるというくらいで、ほろ苦さが残る。相互理解による大団円とはいかないのだ。
 ラストの展開が唐突で少々びっくりしたのだが、アンティークにはやはり時間と共に加わった「重さ」があるのかもしれない。クレールが耐えられなくなってきたのは自分の過去・思い出の重さだけでなく、屋敷に詰まったくアンティークの重さものしかかってきたからのように思えた。確かに美術・工芸的な価値は高く見ていて美しいが、一緒に暮らすのは結構圧迫感がありそう。クレールがアンティークをため込んでいったのは、息子や夫を死なせてしまったことに対する自罰みたいなものだったのかもしれない。そこから離れられない、忘れられない状態に自ら追い込んでいったように思えた。それが最後に開放されたのか。

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