1849年、メリーランド州の農園・ブローダス家が所有する奴隷のミンティ(シンシア・エリボ)は、自由の身となって家族と暮らすことを願い続けていた。しかし奴隷主エドワードが急死、借金返済に迫られたブローダス家は、ミンティを売ることにする。売られれば家族とはもう会えないと悟ったミンティは、脱走を決意し奴隷制が廃止されているペンシルバニア州を目指す。監督はケイシー・レモンズ。
 奴隷解放運動家ハリエット・タブマンの人生を映画化した作品。ミンティという名前は奴隷主がつけた呼び名で、彼女が自由を手に入れた時に自分で決めた名前がハリエット・タブマンなのだ。作中で出る字幕によると、彼女が逃亡を成功させた奴隷は70人。南北戦争では黒人兵を率いて戦い、晩年は参政権運動にも関わったという人だそうだ。恥ずかしながらこういう人が実在したことを初めて知ったのだが、本作で描かれる人生は大変ドラマティック。ストーリー展開は直線的で少々ダイジェスト版ぽい、正直野暮ったい作りなのだが、こういう人がいた、という面で面白く見られた。
 彼女は頭部を負傷したことの後遺症で睡眠障害(いきなり寝てしまう)があったのだが、たった一人で逃げ出し、その後は奴隷解放組織の一員として何度も南部と北部を行き来した。非常にタフで、自分を見くびるなという意志の強さがある。奴隷が置かれた過酷な状況は、自身が自由になってからもずっと、彼女にとっては自分の問題、自分の苦しみだ。他の組織のメンバーは自由黒人であったり白人であったりと、奴隷の立場そのものとはやはり切実さが異なる。下宿の主マリー(ジャネール・モネイ)に「臭う」と言われてくってかかる(そもそも失礼だしね)のも、想像力のなさに対するいら立ちからだろう。
 不公正さへの感覚は人によって差があって、ハリエットはそこに鋭敏、かつそれは間違っているという意志を持ち続け、行動に移すことができた。黒人で元奴隷である彼女にとってその行動のリスクは非常に高いし、解放組織の仲間も、彼女には無理だ、組織を危険にさらすなと止めようとする。彼女はそこを押し切って(そこもまた、自分を見くびるなということだろう)行動に移すわけだが、信仰が後ろ盾になっているという面も非情に大きい。ハリエットは睡眠障害の一環として、幻視体験をするのだが、それを神のお告げとして解釈し従うのだ。この幻視がストーリー上都合よく使われすぎな気もしたが、自分を導く存在がいると確信できるというのは行動するうえで大きな支えなのだと思う。解放組織のメンバーとしての彼女の通称は「モーゼ」なのだが、神のお告げに従い民を導く女性という面ではジャンヌ・ダルクのようでもある。白人奴隷主たちは彼女を捕らえてジャンヌ・ダルクのように火あぶりにしろ!といきまくのだが、クリスチャンとしてそのたとえは大丈夫なんだろうか…。

ハリエット
テレンス・プランチャード
Rambling RECORDS
2020-03-25


それでも夜は明ける [Blu-ray]
ブラッド・ピット
ギャガ
2016-02-02