エリオット・チェイズ著、浜野アキオ訳
 ホテルで抱いた娼婦・ヴァージニアとなぜか共に旅に出たティム。道中で彼女を捨てるつもりだったが、欲望に忠実で度胸がある彼女と離れがたくなる。ティムは獄中で仲間と立てたある計画があり、その相棒としてヴァージニアを同行させる。
 ティムの現金強奪計画はなかなかのスケールで、着々と準備を進めていく様や特別仕様のトレーラーをこしらえる様は愉快。だが実際の犯行の瞬間は予想外にあっさりしている。ティムが囚われ悶々とするのはヴァージニアの存在だ。とは言え、犯罪の相棒としてのヴァージニアは頼もしい。予想外のドライビングテクニック、「悪い金なんてない」と言い放つ様など魅力的だ。いわゆるファム・ファタルと言えるのだろうが、ティムを破滅させるというよりも一緒に奈落の底まで突っ走っていく、何ならティムを置き去りにしていくような勢いの良さがある。彼女の方が欲望がはっきりいているのだ。ティムの方が無自覚で、それゆえヴァージニアに振り回される。ティムとヴァージニアの間にあるものがわかりやすい愛や信頼ではなく、理屈を越えた離れがたさなところに、クライムノベルとしてよりもノワールとしての個性が際立っていた。彼らはこういうふうにしか生きられないという強烈さがある。

天使は黒い翼をもつ (海外文庫)
エリオット・チェイズ
扶桑社
2019-12-27