配信で鑑賞。経済が破綻状態にあり、働き口と福祉を奪われる不満から移民排斥主義運動が高まっていた、1970年代後半のイギリス。イギリス国民戦線(NF)を中心に排斥運動の過激化が進む中、芸術家のレッド・ソーンダズらは差別に対してロックで対抗する組織「ロック・アゲインスト・レイシズム(ARA)」を発足。ザ・クラッシュ、スティール・パルスらパンクやレゲエミュージシャンのライブを開催し反レイシズムを訴える彼らの活動は、多くの若者たちに支持されていく。監督はルビカ・シャー。
 RARの活動を追ったドキュメンタリーだが、レッドにしろ中心的スタッフのケイト・ウェブにしろ、表現は政治活動であるという認識は一貫している。これは日本だとなかなか抵抗を感じる人が多いし反感をかいそう。とは言え、社会の中で生きている以上政治にかかわらない活動というものはない(政治的主張を表現活動として表現するかどうかはまた別の話だし、やってもやらなくてもいい)。アーティストが政治を語ると「がっかりした」等の声が湧き出る今の日本とは大分様子が違う。当時はデビッド・ボウイやエリック・クラプトンまでNF支持を表明していたというから、そこに反対していったレッドらの覚悟は相当なものだったろう。実際、激しい嫌がらせにあったり知人から身辺に気を付けるよう忠告されたと言う。
 ARAのユニークな所は、NFの支持層である白人青年たちに人気のパンクバンドをイベントに起用して、そのファンとの対話を試みたという所だろう。ある意味、人間に対する信頼があるからできることではないかと思う。また、人種差別だけでなく性差別、LGBT差別、宗教や経済格差等、様々な差別問題を不公正なものとして包括的に反対運動が進められていた点も面白い。不公正・不正義には声を上げろという姿勢が一貫している。1978年のデモとフェスには10万人以上の人が集まったというから、その姿勢が様々な人々の共感を呼び行動されたということになる。相当数の人びとが声を上げたという所に健全さと言うか、救いがある。正直羨ましい。インタビューされた若者が「NFは国の問題を個人の問題にしている」と話していたのも印象に残った。国の経済状況が落ち目になると排斥運動は起こりやすく、それは経済問題だし、レイシズムへの流れを押し止めるのは「差別をやめましょう」という道徳よりも、国の経済政策やアナウンス、教育によるものだということだろう。
 RARの広報誌の紙面が結構かっこよく、何かを訴える為にはデザイン、ビジュアルも大事なんだなと改めて感じた。若い層の支持を得たというのはこういう要素もあったからだろう。なお、ザ・クラッシュは右翼的な白人男性の支持が強かったそうだが、バンドメンバーは「歌詞ちゃんと読めよ!(レイシズム要素はないから)」と話しているのがおかしかった。

白い暴動 (字幕版)
スティール・パルス


白い暴動
ザ・クラッシュ
SMJ
2013-03-06