くどうれいん
 2016年6月から2017年6月まで、日々の料理や思い出の料理等、食が頻出する日記。ちんまりとした造本も魅力。
 著者は歌人・俳人・文筆家だそうだが、私はこの随筆集で初めてその名前を知った。日記のタイトルが俳句になっているので、随筆部分とのコントラストもまた楽しい。文章は率直でユーモアがあるが、正直故に辛辣な時も。時に意固地さや傲慢さ、気弱さを見せたりと、表情がくるくる変わる。一つ一つの素材は特に珍しいものではないかもしれないが、その変り方を一歩引いた所から観察し記す視線があるから、読ませるのだ。まだ自分のトーンが定まり切っていない、勢いと危うさのようなものをはらんでいて瑞々しい。そして著者が食べることが好き、料理が好きであることがよくわかる。食べ物そのものの描写や食べたときの感触だけでなく、それを作る時の動き、手さばきの表現に料理し慣れている人のそれを感じた。


口福無限 (講談社文芸文庫)
草野心平
講談社
2014-03-28