若菜晃子著
 山岳専門誌『山と渓谷』の編集者である著者が、編集者として駆け出しの時代の回想や、お気に入りの山、自分なりの山の楽しみ方などを綴った随筆集。挿画も著者によるもの。
 まず装丁がいい!こぢんまりとした大きさに、控え目で品のいい、かつどこか朴訥としたデザインと佇まい。見た目でこれはいい本なのでは、と感じさせるよい作りだと思う。著者の文章は気取りがなく、何かを劇的に綴るわけではない。とつとつとした語り口調で器用な文という印象ではないのだが、描写しようとする対象に対する誠実さが感じられる。ちゃんと見て、ちゃんと考えている文なのだ。特に編集仲間、先輩らについての文章には相手に対する敬意が感じられる。と同時に、彼らに対する若いころの鬱屈や、気持ちのひっかかりの残滓みたいなものも見つめている文だと思う。決して人間関係に器用とは言えない人柄が文章からも垣間見えるのだが、だからこそ人に対してひっかかった部分をずっと覚えていられるのかなとも思った。そして何より、山や野山の描写がとても楽しい。私は本格的な登山はやらないが、低い山を歩く時の気持ちの良さや解放感が読んでいると甦ってくる。

街と山のあいだ
若菜晃子
アノニマ・スタジオ
2017-09-22


旅の断片
若菜晃子
アノニマ・スタジオ
2019-12-20