A・A・ミルン著、山田順子訳
 とある田舎の屋敷で殺人事件が起きた。被害者は15年ぶりに館の主マークを訪ねてきた兄ロバート。第一発見者はマークの従弟で彼の仕事の手伝いをしているマシュー・ケイリーと、館に滞在中のウィリアム・ベヴァリーを訪ねてきたアントニー・ギリンガム。現場の状況からマークに容疑がかかるが、彼は姿をくらましたままだ。ギリンガムはベヴァリーを助手に事件を調べ始める。
 江戸川乱歩が探偵小説黄金時代のベスト10に入れている本作だが、読んでみて納得。正直舐めていましたすいません。予想以上にしっかり本格ミステリだった。その行動はそういうことか!というつじつまの合わせ方がちゃんとしている。難点は屋敷の間取りや建物の位置関係など、物理的な距離の表現がわかりにくいという所だろうか。どう頑張っても文章に即した間取りが書けなさそうなのだが…。
 田舎の屋敷での殺人、行方不明の容疑者、そしてスマートな名探偵と人のいいワトソン役。古典ミステリの王道みたいな布陣だ。ミルンは探偵と助手の造形はシャーロック・ホームズシリーズを意識したそうだが、ギリンガムとベヴァリーの方がわかりやすく仲が良い。お互いのいい所をちゃんとほめあうというツンのないデレのみの関係。ベヴァリーはギリンガムのことをちょっと持ち上げすぎな気もするけど、ギリンガムがベヴァリーのことを気にかけており彼の人間性をかっているということがはっきりしているのだ。2人のやりとりがほほえましい。そして関係性が気になる2人は実はもう一組いるのでその道の方は要注目だ。
 なお、巻末に著者による「『赤い館の秘密』によせて」という文章が収録されているが、最後の一文が胸を打つ。

赤い館の秘密【新訳版】 (創元推理文庫)
A・A・ミルン
東京創元社
2019-03-20


クマのプーさん全集―おはなしと詩
A.A.ミルン
岩波書店
1997-11-17