父親が死んだという知らせを聞き、ずっと疎遠だった故郷の凱里に戻ったルオ・ホンウ(ホアン・ジュエ)。故郷の町で幼馴染だった白猫の死を思す。また、忘れられない1人の女性、ワン・チーウェン(タン・ウェイ)のことを思い起こす。彼女は地元のヤクザの情婦だった。監督はビー・ガン。
 作品の中盤で2Dから3Dに切り替わる。ルオが映画館で3D眼鏡をかけると同時に観客も眼鏡をかけて、彼の体験を追体験する気分になる。残念ながら新型コロナウイルスの影響で3D上映が縮小してしまっているが、ぜひ3Dで見ることをお勧めしたい。見え方が変わることが、映画の構造が明示されるのだ。時に夢=映画の方がありありと感じられるものではないか。
 ルオがワンについて聞く噂から、彼女と過ごした時間を回想する。しかし回想の中身は、彼女について聞いた断片的な情報をもとに組み立てられたストーリーであるようにも見える。ルオの想像でしかないのではないかと。更に言うなら彼女は実在しない女、ルオの頭の中にだけ存在する「幻の女」なのではと。幻の女を追い続けても当然、彼女に手が届くはずはない。ルオは幻想と記憶、現実との間をフラフラと行ったり来たりしているような、半分眠っているような構造だ。
 ルオが追いかける女性はもう1人いる。彼の母親だ。彼の母親は若いころに家を出て行方が知れない。ルオが母親について覚えていることはわずかだ。そのわずかな記憶は登場する女性たちに少しずつ投影されているように思う。ワンにも白猫の母親にも、もちろん終盤に登場する女性にも。記憶の中の女性の影を追い続けるロードムービーだった。夢の中を旅するような映像はとても美しい。緑と赤という補色同士の組み合わせが鮮やかで、ネオンカラーのような艶っぽさがあった。

花様年華 (字幕版)
マギー・チャン
2013-11-26


青いドレスの女 [DVD]
ドン・チードル
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2010-02-24