エレナ・フェッランテ著、飯田亮介訳
 作家として成功し、夫ピエトロと別れ恋人ニーノとの生活を望むエレナは故郷ナポリに帰る。しかしニーノが妻と別れる気配はなく、エレナは不安に駆られていく。一方、距離を置いていた親友リラとの関係は、お互い妊娠したことでまた縮まっていく。そんな折、ある事件が起きる。
 2人の女性の大河ドラマ「ナポリの物語」完結編。終盤の方、かなりエピソードが詰め込まれているしシリーズスタート時の時代設定(ほぼ現代でエレナとリラは初老)に追いつかせる為に時間の飛躍が激しいように思った。エレナは作家として大成するが、それは本当に彼女自身が掴んだものだったのか、背後にリラがいたからこそで自分の中身はからっぽなのではと彼女が自身を疑い始める部分は少々そら恐ろしくもある。そんな疑問持ったら作家なんてやっていられないではないか。リラの存在はよかれあしかれ、エレナにとってはそれだけ大きいものだったのだ。少女時代のような片思いの友情ではなく、時に重荷のような存在としての親友。リラはなんでもできそうに見えたのに、何をしたいのか最後までわからないままだ。そのわからなさがエレナに呪いのように纏わりついており、また創作の源にもなっているように思えた。
 4巻目はエレナのニーノとの関係における葛藤、娘たちとの葛藤がインパクトあり読ませる。惚れた相手の難点や弱さに目をつぶり続けてしまうエレナの弱さというか、憧れの拗らせみたいなものが読者を苛立たせるだろうが、痛々しくもある。彼女は(のちに自覚するように)自分の小説の中では自立した女性、フェミニズム的な思想を描いているが、実生活では恋人の顔色を窺ってばかりで振り回されっぱなしだ。そこから自由になるには時間がかかるのだろう。エレナの場合は気付きのシチュエーションが最悪だけど…。本シリーズ、幸せな結婚生活というものが一切出てこず、その辺は結構シビアだ。別れた夫との関係が後年、子供たちが成長してくると好転する、ちゃんと「家族」になれるというあたりも面白い。ピエトロが親としてちゃんと成長しているっぽいのだ。

失われた女の子 (ナポリの物語 4)
フェッランテ,エレナ
早川書房
2019-12-19


逃れる者と留まる者 (ナポリの物語3)
エレナ フェッランテ
早川書房
2019-03-20