エイドリアン・マッキンティ著、鈴木恵訳
 シングルマザーのレイチェルの元に、娘を誘拐したというメッセージが届く。犯人の要求は身代金だけでなく、他人の子供を誘拐すること。犯人もまた子供を人質に取られ誘拐を強要されているのだ。この連鎖犯罪システム「チェーン」は首謀者にたどり着くこともできず誰も逃れられないという。レイチェルはやむなく、元夫の兄ピートの手を借り誘拐に手を染める。
 身近な人の安全を奪いターゲットを犯罪へと追い込む「チェーン」は悪辣かつ巧妙なシステム(ちょっと巧妙すぎるぞ管理しきれるのかというツッコミどころはあるのだが)で、人の愛情に付け込むというところがなかなかに胸糞悪い。この悪意のシステムにレイチェルは翻弄されていくが、なんとか娘を救出しようとする前半から、「チェーン」からの脱出を試みる後半へとスピーディーな展開で息をつかせないクライムサスペンス。ボロボロになりながらも娘の為、自分の為にもがき続けるレイチェル、問題を抱えつつそれをささえるピートという大人2人の戦いもいいのだが、レイチェルの娘カイリーの恐れつつも冷静さを保とうとする奮闘にもぐっとくる。ものすごく秀でた何かがあるわけではない、普通の人たちが愛する者を守りたい一心で巨大なシステムに立ち向か、今自分にできる方法で戦う様は応援したくなるし目が離せない。
 とは言え、著者の作品としては刑事ショーン・ダフィシリーズの方が私は好みだった。本作はリーダビリティは高くストーリーの引きも強いが、ショーンシリーズにあった風情や風土描写の味わいが薄いんだよな…。こういう作品も書けるんだという意外性と、良くも悪くもスリルとサスペンスに特化している感じ。

ザ・チェーン 連鎖誘拐 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
エイドリアン マッキンティ
早川書房
2020-02-20


ザ・チェーン 連鎖誘拐 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
エイドリアン マッキンティ
早川書房
2020-02-20