ルシア・ベルリン著、岸本佐知子訳
 毎日バスで他人の家を訪ね掃除をして回り掃除婦仲間と情報交換していく女性を描く表題作をはじめ、夜明けになりふり構わず酒を買いに通ってしまうシングルマザー(『どうにもならない』)、社会活動に熱心な教師に連れられ貧民街へ通う少女(『いいと悪い』)、刑務所内の文章クラス(『さあ土曜日だ』)等、華々しくもゴージャスでもない人たちの人生を描く短編集。
 評判になっていただけのことはあって、とてもよかった。描かれる人生は決して居心地がよさそうなものではない。経済的には底辺にいたり、アルコール依存症や病に苦しんだり、豊かな家庭であってもどこか欠落して満たされなかったりする。そういった状況が率直に、具体的につづられており時に容赦ない。『どうにもならない』のアルコールに対する切実な渇望はまさにどうにもならないのだとひしひしと伝わってきて辛い(朝になってからの家族とのやりとりがこれまたきつい)。しかし深刻な状況であっても、いやであるからこそそこに強靭なユーモアがある。ユーモアと痛みが一体になっており、泣いていいのか笑っていいのかわからなくなるような余韻を残すのだ。登場する人たちは皆全然大丈夫じゃなさそうなのに、冷めたおかしみがある。特に「私」と妹のサリー、「ママ」との関係を描いた連作は、死の臭いが濃厚なのに思い出の端々がきらきらしていてやるせなかった。


楽しい夜
講談社
2016-02-25