ニューヨークで活動している写真家のロニート(レイチェル・ワイズ)は、父親の死の知らせを受けイギリスに帰郷する。彼女が育ったのは厳格なユダヤ・コミュニティで、彼女の父親はそこのラビだったのだ。ロニートは幼馴染のドヴィッドと結婚したエスティ(レイチェル・マクアダムス)と再会する。かつてロニートとエスティは愛し合っていたが、コミュニティの掟はそれを許さず引き裂かれたのだ。監督はセバスティアン・レリオ。
 ロニートが写真家という設定に、先日回顧展を見たソール・ライターのことを思い出した。ライターもユダヤコミュニティの出身で、父親は著名なタルムード学者。ライターは神学校を中退して写真家を目指すが、偶像崇拝を禁じるユダヤ教文化の中では写真はタブー視されており、家族とは絶縁状態に。唯一の理解者だった妹は精神を病み生涯を病院で終えたそうだ。強固なコミュニティはそこに疑問を持たず馴染める人によっては安心できる拠り所になるのだろうが、内部のルールに馴染めない、逸脱した人にとっては強い抑圧、足かせになってしまう。
 ロニートは写真を手段としてコミュニティから離れ別の世界を得るが、エスティの世界はコミュニティの中にこそある。教師という仕事にはやりがいを感じ、夫との生活も不幸なわけではない。ただ、本来の自分を隠し続けなくてはならないのだ。更に苦しいのは、エスティはもちろんロニートも信仰を失ったわけではなく、文化的な背景もルーツもユダヤ文化と共にある。そのコミュニティの中で生活することができなくても、そこで染みついたものが消えるわけではないのだ。信仰はあるのにその教義が自分の生来の姿を許さないというのは、自分の存在を自分の拠り所に否定されるわけで、相当苦しいのではないかと思う。
 その葛藤を越えて彼女らはある決断に至るが、選んだ道がどうであれ、自分で選んだ、選択肢があったということが重要なのだろう。かつての2人はそれがなかった。コミュニティ自体にも変化の兆しがあったのかもしれない。ロニートの父が話しきれなかった説法では「選択」という言葉が繰り返された。そしてドヴィッドがそれを受け継ぐ。そこにほのかな希望が見えるように思った。

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