伊与原新著
 宮沢賢治の故郷である花巻。壮太は怪我で高校の「鹿踊り部」の選抜メンバーを外される。そんな折、幼馴染の七夏と共に地学部の活動をすることになった。しかし七夏は突然姿を消す。地学部で一緒に活動している東京からの転校生・深澤が関係しているのではと壮太は疑うが、深澤と先輩の三井寺と共に地学部の自転車旅行に出ることに。
 自分には鹿踊りしか打ち込めるものはないのにと、怪我に落ち込み少々荒む壮太の姿は若くほろ苦い。10代って視野がまだ狭い所があって、一つのことが上手くいかないと全部だめになったような気になるものだよなと。七夏にも深澤にもそれぞれの事情があるが、彼らが抱えるものは「あったこと」として飲み込むしかできないものだ。それは10代にはまだ酷だろう。七夏のように時間が必要なのだ。花巻と言えば宮沢賢治の故郷で、作中でも頻繁に引用されるし、『銀河鉄道の夜』が下敷きにされた話でもある。『銀河鉄道の夜』もある意味覆せない「あったこと」を受け入れる話でもあるか。ミステリ的な謎解きと合わせ、『銀河鉄道の夜』が上手く機能していると思う。
 何より、花巻を中心に、小岩井牧場近辺や八幡平など、個人的になじみのある土地の風景が次々と出てきて楽しかった。どういう経路で移動しているかちゃんとわかる描写だ。しかし自転車でこの距離か!よく走るな~!