伴名練著
 いくつもの並行世界を誰もが行き来している世界。しかし転校生は一つの世界しか生きられないという。表題作をはじめ、伊藤計劃の『ハーモニー』へのオマージュである「美亜羽へ贈る拳銃」、ソ連とアメリカの攻防がまさかの展開になっていた偽史小説「シンギュラリティ・ソヴィエト」、新幹線の中と外で時間の流れが異なるという「ひかりより速く、ゆるやかに」等6編を収録。
 読んでいなかったことを恥じるぶっちぎりの面白さ。日本のSFが氷河期だったのっていつ?ってくらいキレッキレのSF中短編集。表題作は読むなりある奇妙さに気付くのだが、その奇妙さが意味する設定、そしてそれが生み出すクライマックスのスペクタクル感と彼女の選択の意味が起こすエモーショナル。ここから次元の側面を割愛して時間の側面を前に出したのが「ひかりよりも速く、ゆるやかに」。時間の速度を巡るSFと持たざる者の屈託が結びついているが、あまりドロドロせず、人間存在へのポジティブさが根底に流れている(だってちゃんと対策発見するし他人への思いやりがある)所がいい青春小説。一方で人の自由意志を問う「美亜羽へ贈る拳銃」「ホーリーアイアンメイデン」は苦く悲しい。「今」の日本SFの最先端という感じなのだが、文体、特に女性登場人物の話し言葉のクセ、キャラ度の高さみたいなもの(ラノベの影響なのかな?)はむしろ古臭く感じた。女性の話し言葉のぶっきらぼうさとかユニセックスさって、そういうことじゃないと思うんだよな…。

なめらかな世界と、その敵
伴名 練
早川書房
2019-08-20