田舎でひっそりと一人暮らしをしている井川迅(宮沢氷魚)。彼の前に元恋人の日比野渚(藤原季節)が幼い娘・空を連れて突然現れる。渚は妻と離婚するため親権の協議中だった。戸惑いつつ同居を始め、周囲の人たちにも受け入れられていく。しかし渚の妻・玲奈(松本若菜)は空を東京に連れ戻してしまう。監督は今泉力哉。
 脚本・演出が非常に丁寧だと思う。迅と渚はゲイのカップルなのだが、それを例外的なものではなく普通のことであり、誰の背後にもそれぞれの普通の生活があるということがちゃんと踏まえられている。迅が暮らす町は、地方の小さい町にしては地元の人たちがかなり寛容で、実際にこういうケースがあったらもっとあれこれ干渉されたり揶揄されたりするんじゃないかと思うけど…。とはいえ、あまり苦しい面ばかりを強調したくない(そこが本筋ではない)という製作側の意図なんだろうし、セクシャリティ云々よりも若い居住者が減る一方だから居住者ゲットの方が大事なんだよ!みたいな過疎化問題もありそうだなと思ったりもした。そう思わせるくらい地に足の着いた生活感のある描写だったということだろう。セクシャリティを隠さざるを得ない環境の苦しさは、会社員時代の迅の飲み会でのエピソードで十分伝わる。表面上はセクシャリティをネタにするのはアウトだという振る舞いだが、一枚めくると「ネタ」扱いで当事者がまさにこの場にいるということ自体が想定されていない。村八分よりむしろこういうマイルドな差別というシチュエーションの方が多いのではないかと思う。
 迅と渚はゲイとして世間の偏見にさらされることを恐れるが、シングルマザーとなった玲奈に対する世間の目もまた厳しい。裁判のシーンでそれが如実に現れる。子供を育てつつ仕事に励む物理的な厳しさ、精神的な厳しさをきちんと描いており、このあたりはバランスがいい。セクシャリティに限らず、世間的に設定されている「普通」に当てはまらない人に対しての風当たりの強さ、不寛容さへの批判がある。玲奈と彼女の母親の関係性の描写を入れたのが効果的(というかこういう親子関係あるよなーという辛さがすごい)だった。母は「世間」代表なのだ。
 「世間」に糾弾される玲奈を見て、渚は彼女もまた苦しんでいることに気付く。渚は迅の元からの去り方にしろ、再会の仕方にしろ、そしておそらく玲奈との関係にしろ、甘えがにじみ出ている。おそらく相手の気持ちや立場をあまり考えない人だったんだなと窺える。そんな彼が急速に大人になっていく様が清々しい。一方で迅も、渚と空と共に生きる為に踏み出す。彼の「賭け」にはぐっときたし、それに対するある人の言葉もぐっとくる。
 子役と犬の芝居が非常に良い。あと猟師役の鈴木慶一がいい味出していたのでファンの方はぜひ。
 
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