河野典生
 作家の高田は、医者の三村から失踪した妹を探してほしいと頼まれる。箱入り娘として育った妹・真理は外泊を重ねた後、帰宅しなくなったというのだ。方々のバーで遊びまわっていたという真理は、ケイという男と懇意にしていたらしい。ケイは真理と何をしようとしていたのか。
 バーに集う自由だが怪しげな若者たちやヤクザ、ケイが所持していた麻薬など、何か大きな陰謀があるかのようににおわせつつ、ごく小さな箱の中の悲劇に集約されていく。作中ではチャンドラーというあだ名の登場人物(そのあだ名になった経緯はチャンドラーのある作品を読んでいないとぴんとこない、サービス的なもの)がいたり、何かと引き合いに出されるし、探偵が殴られて気絶するところも踏襲されている(マーロウはだいたい1作に1回は殴られて気絶するよね)が、作品のモチーフはむしろロス・マクドナルド的。若い人や弱い人への優しさ、とまではいかないが辛辣ではないところもロスマク的か。古い価値観で自分も身近な人も押しつぶしてしまう大人が複数名登場するが、そちらに対しては少々辛辣。さすがに時代を感じさせる部分もあるが、時代風俗を含めディティールの描写がいいハードボイルド。カバー装画(講談社文庫版)が司修でちょっと驚いた。

他人の城
河野 典生
アドレナライズ
2015-07-24