ワイト島の農家で母と暮らすヴァイオレット(エル・ファニング)は歌手を夢見ている。オーディション番組「ティーンスピリット」の予選が地元で開催されると知った彼女は出場を願うが、保護者の同意が必要だという。母親は歌手になることには猛反対。ヴァイオレットはバーに居合わせた元オペラ歌手のヴラッド(ズラッコ・ブリッチ)に保護者の振りを頼む。ヴァイオレットに才能を見出したヴラッドは歌のコーチを申し出る。監督はマックス・ミンゲラ。
 エル・ファニングのエル・ファニングによるエル・ファニングの為のド直球アイドル映画。ともするとダサくなりそうなところ、話を引っ張りすぎないコンパクトさとテンポの良さですっきりと見せている。ファニングのややハスキーな声での歌唱パフォーマンスがなかなか良くて、クライマックスはぶち上げ感がしっかりあった。ヴァイオレットが好んで聞く曲、オーディションでの選曲から、彼女の音楽の趣味の方向性や人柄がなんとなくわかるような所も音楽映画として目配りがきいていると思う(単に今の音楽のモードがこういう感じなんですよということかもしれないけど…)。
 ストーリーは名もなき若者が夢を追い、努力と才能でスター街道を駆け上がるという、非常にオーソドックスなもの。この手のストーリーにありがちなイベントが盛り込まれているが、一つ一つがかなりあっさりとしている。母親との葛藤も、師匠のしごきも、調子に乗ってのやらかしも、将来への不安もさらっと触れる程度で重さはない。それが悪いというのではなく、本作はそういうドラマティックさを見る作品ではないんだろうなと思う。音楽を聴いた瞬間の世界の広がり方や、自分の中で自分の音楽が鳴り出す瞬間のあざやかさ、そういった雰囲気を楽しむものなのだと思う。
 ちょっと突っ込みたくなる部分は多々あるのだが(ワイト島って相当田舎だと思うのだが、そんなにスキルのあるバンドが都合よくいるの?!という点を一番突っ込みたかった)、エル・ファニングのアイドル映画としては大正解では。なお、前回のティーンスピリッツ優勝者が全くイケておらず、それでよくスター扱いされるなと思った。ステージ上の階段を降りる時の足元がぎこちなくて気になってしまう。

アリー/スター誕生 [DVD]
レディー・ガガ
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
2019-11-06