1950年代、NY。私立探偵事務所の所長フランク・ミナ(ブルース・ウィリス)が殺された。少年時代から彼に育てられた部下のライオネル・エスログ(エドワード・ノートン)は事件の真相を探ろうとする。ミナは何者かの秘密を追っていたのだ。原作はジョナサン・レセム。監督はエドワード・ノートン。
 ノートンが監督主演を兼ねているが、俳優としてはもちろん監督としての筋の良さがわかる好作。90年代が舞台だった原作よりも時代設定をさらにさかのぼらせたことで、翻訳ミステリ小説ファンには懐かしさを感じさせる、クラシカルな探偵映画になっている。ビジュアルの質感や、ジャズを中心とした音楽の使い方(なぜかトム・ヨークが楽曲提供&歌唱しているんだけどあまり違和感ない)も雰囲気あってよかった。ただ、クラシカル故にというかそれに流されたというか、女性の造形・見せ方も少々レトロで、(特に当時の黒人女性がおかれた立場を描くなら)もう少し彫り込むことができたのでは?とは思った。ノートンが実年齢よりだいぶ若い設定の役柄なので、女性と年の差ありすぎないかという所も気になった。設定上はそんなに年齢が離れていないはずだし、確かにノートンは年齢の割に若く見えるのだが、さすがに厳しい。
 題名の「マザーレス・ブルックリン」はミナがライオネルに着けたあだ名。文字通り、ライオネルは母のいない孤児として、疑似父親であるミナに育てられた。ライオネルが親しくなる黒人女性ローラ(ググ・ンバータ=ロー)もまた母親を早くに亡くしており父親に育てられた。ライオネルが追う謎は、2組の父子の父親の謎でもある。父親は実はどのような人間なのか、何をしていたのかという。そして彼が清廉潔白でなかったとしても、子供への愛は依然として残り、それがほろ苦くもある。
 ミナ役のブルース・ウィリスをはじめ、ウィレム・デフォー、アレック・ボールドウィンという大御所がなぜか出演しているのはノートンの人脈か。ボールドウィン演じる不動産王はトランプ大統領を思わせる造形。50年代が舞台なのにも関わらず、地上げと地元民の排除が背景にある点はより現代に通じるものがある。


銃、ときどき音楽
ジョナサン レセム
早川書房
1996-04