神林長平著
 松本市で暮らす作家の「ぼく」は、父と連絡が取れないという冠婚葬祭互助会からの知らせを受け、新潟の実家へ戻る。実家で父の不在を確認したものの、そこで出会ったのは自分と同じ名前「タクミ」と名乗る自分そっくりの男だった。彼は育ての親を殺して死刑に「なってから」ここに来たというのだ。一方、父は生後3か月で亡くなった双子の兄と「ぼく」にそれぞれ「文」「工」と書いて同じ「タクミ」と読ませる名前を付けていた。
 SFでもありミステリでもあり哲学でもある。ほぼ「ぼく」と「おれ」の一人称と対話で進む「ぼく/おれ」は何者なのか、「タクミ」とはどういう存在なのかという思索。自分という存在が単一ではなくいくつものレイヤーに存在している、またある分岐から自分という存在のルートがいくつも分岐しているのではという「自分」の在り方、不確かさを辿る。宗教・哲学の領域に入っていく過程を力業で読ませる。その在り方に気付く過程が対話によるものだというのは哲学の基本なのかも。


レームダックの村
神林 長平
朝日新聞出版
2019-11-07