ロンドンのクリスマスショップで働くケイト(エミリア・クラーク)は歌手志望だがオーディションには落ちてばかり。ある日、風変わりな青年トム(ヘンリー・ゴールディング)と出会い惹かれていくが、彼の行動には謎が多かった。脚本はエマ・トンプソン、監督はポール・フェイグ。
 ケイトとトムのロマンティックなクリスマスラブロマンスという大枠はあるのだが、様々な要素が盛り込まれすぎており、なんだか不思議なことになっている。女優のエマ・トンプソンが脚本を手掛けているそうだが、こういう作風の人なのか…。ケイトがユーゴスラヴィアからの移民、トムがはっきりとアジア系だとわかるルックスというのもハリウッドのラブコメとしては珍しいなという印象だが、2人以外にも、ケイトの家族はもちろん、勤務先の上司サンタ(なんとミシェル・ヨー!)は華僑だし、そのボーイフレンドは東欧だかロシアだか(サンタが鼻濁音ばかりで発音できない!と言う)系らしいし、主要登場人物の多くが生粋のイングランド人というわけではない。折しもブリグジットに揺れる英国が舞台で、TVニュースを見たケイトの母がイングランドを追い出されるのではと怯えるシーンもある(と同時に「外国人が多すぎる!」と言っちゃうんだけど)。バスの中で外国人カップルが「英国では英語を話せ!」と暴言を吐かれるシーンも。異質なものに対する不寛容さが強まる世相と、そこにあらがう人たちの姿をかなり意識的に描いている。
 さらに異文化だけではなく、階層間の無関心についても言及される。ホームレスのシェルターでケイトがなりゆきでボランティアをするというエピソードがあるが、彼女の無意識の態度は「上から目線」とこっそり揶揄される。「中産階級の善意(寄付)はしょぼい」みたいなフレーズは、英国ならではの階層ギャグなのか?
 更に、ケイトが家族、特に母親とあまりうまくいっていない(明らかに2人ともカウンセリングが必要だと思うんだけど…)、母親のケイトへの拘りには祖国での戦争体験も影響していること、そしてケイトの姉にも家族に隠していることがある等、家族ドラマ要素も盛りだくさん。祖国では弁護士だった父が、英国ではタクシードライバーをしている(お金がなくて英国での弁護士資格取得のための勉強ができないまま)という設定など切ない。家族ドラマだけで映画1本作れそうだ。
 更に更に、ケイトとトムのロマンスにもどんでん返し的な展開がある。これによって映画のジャンルががらっと変わるのだ。しかし相手への思いやりという面ではより切なく、真摯なものに感じられる。本作、ラブロマンスではあるのだが、恋愛が成就すること、あるいはケイトの歌手になるという夢がかなうことよりも、依存しないで立つこと、自分に肯定感を持つこと、そして寛容であることの方が幸せへの確実な道だと説いているようだった。盛りだくさんすぎてとっちらかってはいるが、そこがとてもいい。なお題名の通り、ラスト・クリスマスをはじめジョージ・マイケルの楽曲を多用している。それも2019年の映画としてはかなり珍しいのでは。

ラスト・クリスマス
ワム!
Sony Music Direct
2004-11-17


ホリデイ [Blu-ray]
キャメロン・ディアス
ジェネオン・ユニバーサル
2012-04-13