2016年に公開された『この世界の片隅に』に新たなシーンを追加した長尺版。昭和19年に広島県の呉に嫁いだ19歳のすず(のん)は夫・周作(細谷佳正)、その両親、周作の姉・径子(尾身美詞)とその娘・晴美と暮らし始める。原作はこうの史代の漫画、監督・脚本は片淵須直。
 3時間弱はさすがに長すぎる!しかし、『この世界の片隅に』の単なるエピソード追加版ではなく、エピソードが追加されたことで違った様相が見えるような作りになっていた。『この世界の片隅に』は主人公のすずは観客にとって作品に対する入り口のような存在で、すずの視線で、彼女に共感しやすい構成だったと思う。対して本作は、すずという女性の一個人としての感情や思考へのフォーカスの度合いが強まり、こういう女性があの時代、こういう環境で生きていたという具体性が増しているように思った。映画の面白さの種類がちょっと変わった感じ。
 すずという女性の印影がより深くなったのは、遊郭で働く女性・リン(岩井七世)の存在によるところが大きいだろう。同年代の女性同士として淡い交流をするすずとリンだが、2人を繋ぐものがあり、それがすずの心を大きく揺さぶる。すずの元を海軍に入った水原が訪ねてくるというエピソードは、『この世界の片隅に』だとすずの周作に対する憤りがちょっと唐突に見えたのだが、あれこれやがあってのあの展開だとわかる本作だとすずの心境の流れがより自然に見えた。セクシャルな要素がはっきり加わっていることにより映画の雰囲気がちょっと変わっているように思う。当時の「嫁に行く」ということがどういうことなのか、女性にとって人生の選択肢がどの程度限られていたのかも、より浮彫になっていたと思う。
 ただ、一部の台詞やモノローグがちょっと理屈っぽい、全体のリズムを損ねているなという印象は変わらなかった。玉音放送を聞いた後のすずの激しいモノローグは、すずの言動ではなく作り手の言葉が前に出てきてしまって少々言い訳がましいんだよな。あれを入れたかったらもっと早い段階で率直に入れた方がよかったのでは。

この世界の片隅に [DVD]
のん
バンダイビジュアル
2017-09-15