ユルゲン・トールヴァルト著、小川道雄訳
 まだ麻酔がなく、細菌という概念もなかった時代から、医学はどのように発展してきたのか。ドキュメンタリー仕立てで近代医学がどのように発展してきたのか、19世紀を駆け抜け医療の現場を追っていく。
 著者の祖父の手記という体で、体験記仕立てなので読みやすく当時の雰囲気が伝わってくる。近代医学の歴史と前述したが、ほぼ外科医療の発展だ。麻酔の発明が近代医学にとっていかに大きかったのかということがよくわかる。昔の小説を読んでいると麻酔なし(あってもモルヒネ程度)で手術というシーンがあって猛烈に痛そうなのだが、それに加え、衛生状態を清潔に保たなければならないという概念自体がなかったんだよなと本著を読んで再認識した。たまたま室内が清潔だったから手術が成功した、なんてケースが紹介されていて、なかなかにぞっとする。細菌を発見したことで医療にパラダイムシフトが起きたのだ。しかし不潔な状態が症状悪化を招くという認識から、細菌という存在にたどり着くまでがまた長い。細菌という概念への反発も相当強かったようで、見えないものを証明するのがいかに難しいかと痛感した。世界の見え方を変えるということだもんな。

近代医学のあけぼの―外科医の世紀
ユルゲン トールヴァルド
へるす出版
2007-05-01