大学を卒業し教員試験を控えたシナン(アイドゥン・ドウ・デミルコル)は作家志望。故郷へ戻り処女小説を出版しようとするが資金の援助は得られなかった。シナンの父イドリス(ムラト・ジェムジル)は引退間際の教師だが競馬にのめりこみ、借金まみれ。シナンはイドリスを非難する。監督はヌリ・ビルゲ・ジェイラン。
 シナンが故郷の町(トロイ遺跡の近くで、広場に大きな木馬がある)ターミナルに降り立った時の侘しさが身に染みる。地方の町ということもあるが、知り合いに「お前の父親に金貨を貸したから返せと伝えておいて」って行く先々で言われるのってやっぱりきついよな…。イドリスは人柄は悪くないし仕事はちゃんとやっているらしい。またユーモアがある理想化肌なのだが、ギャンブル依存症という一点がそれらを帳消しにしている。借金で家を手放し狭いアパート暮らしになり、車も売りに出し(車に「売ります」という張り紙をしたままにしているのがまた辛い…)、支払いが滞り自宅の電気まで止められる。大学の学費を出してもらった身とは言え、シナンがキレ気味なのもわかる。
 とは言え、母も妹も父親にあきれ果ててはいるが本気で愛想をつかしているようには見えないし、家を出ていこうともしない(出ていく先がないというのも大きいだろうが)。シナンも何だかんだ言って、決定的な糾弾はためらう。どう考えてもイドリスが犯人だというある状況で、シナンは真相に踏み込めない。イドリス本人がそれを示唆し焚きつけるにもかかわらず。父は父として一つの権威であり続けてほしいということなのだろうか。トルコはまだまだ父権主義が強い、父親という存在に重きを置いている文化圏なのかなと思った。腐っても父親ということか。母親が「父さんは他所の父親みたいに殴ったりしない」というが、それは比較対象がおかしいよな…。
 シナンが疑似父親とも言える有名作家に絡みまくる(舞台となる書店がすごくいい!)エピソードがあるのだが、本当に青いというか、後になってみたら黒歴史決定だなという空回り感。なかなかのイタイタしさだ。冷静な議論ではなく自分を擁護するための妄想交じりになっている感じがして、ちょっと怖かった。シナンとイドリスは理想家肌という部分では似ている(故にシナンの文学上の理解者はイドリスになってしまう)のだ。

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