山田稔著
 フランス語翻訳家であり随筆家である著者が、福岡県の門司(現在の北九州市門司区)で過ごした少年時代を綴った随筆集。
 1930年生まれの著者は市の最盛期に育っており、港町に活気があった様子が端々からうかがえる。比較的裕福だったと思われる著者の家は、行商人からちょっといいお菓子を買ったり百貨店への母親の買い物にお供して、食堂でアイスクリームを食べるのが楽しみだったりと、ちょっと華やいだイベントの描写が楽しい。また、都会からの転校生にあこがれつつも距離を縮められなかったり、持ち回り制のように仲間外れになったりまた何もなかったように一緒に遊んだりという子供の世界を、ちょっと距離を置いたクールな視線でつづる。基本乾いた、あまり感傷的にならない書き方なのだが、両親や姉妹についての文章の方が親密さがあり、近所の遊び仲間や学校の同級生との関係の描写の方が、ちょっと冷徹といってもいいくらいの突き放したものを感じた。肉親か否かということよりも、幼少時の遊び友達というのは案外感傷的ではない、あっさりとしたものなのではと思う。
 なお本作、装丁が素晴らしいので手にとってみてほしい。造本自体にノスタルジック(下手すると文章よりも)な雰囲気がある。

こないだ
山田 稔
編集工房ノア
2018-06-01


天野さんの傘
山田 稔
編集工房ノア
2015-07-18