ジョージ・エリオット著、小尾芙佐訳
 親友と恋人に裏切られ盗人の疑いをかけられたサイラス・マーナーは、故郷を捨ててある村にたどり着く。村のはずれで機織りとして生計を立てるようになった彼は、蓄えた金貨を眺めることを唯一の楽しみにしていた。しかしある日、金貨が盗難にあう。そして嘆き悲しむ彼の元にみなしごが迷い込む。
 信頼していた人たちに裏切られ世捨て人のようになったサイラスが、養い子を媒介として愛と信仰を取り戻すという、だいぶ教条的な(1861年に発刊された作品なので時代的な背景もあるだろうし、エリオット自身が福音主義の薫陶を受け、キリスト教研究書の翻訳をしていた経緯もあるだろう)ストーリーではある。とはいえ説教くさくはない。ストーリー展開にメリハリが強く、ドラマティックで飽きない。今だったら連続ドラマ、朝の連ドラ的な王道さと引きの強さ。
 また、登場する人たちのふるまいや感情がとても生き生きとしており、古びていない。特に郷士の長男であるゴッドフリーの優柔不断さ、面倒なことや自分を脅かすことは後回しにして事態をよりこじらせてしまう臆病さは、読んでいてなかなか身に染みるものがあった。人の欠点、強くない所の表現が鋭く具体的なのだ。サイラスの隣人で、無学だが人が良く生活の知恵にたけたドリーの安定した頼もしさ、現代の自立した女性に近い、独身を貫く(父親の資産あってのこととはいえ)名家の長女プリシラのざっくばらんさなど、女性の造形も面白かった。

サイラス・マーナ― (光文社古典新訳文庫)
ジョージ・エリオット
光文社
2019-09-11