税関職員のティーナ(エヴァ・メランデル)は、人間のおびえや嘘を嗅ぎ分ける能力を持っていた。そのため違法なものを持ち込む人間を見分けることができるのだ。ある日、怪しげな旅行者ヴォーレを呼び止め検査したものの、証拠を掴めず入国審査をパスする。彼から何か特別なものを感じたティーナは、ヴォーレに近づいていく。原作はヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの小説。監督はアリ・アッパシ。リンドクヴィストとは共同脚本になる。
 ユニークで面白かったのだが、見ていて段々辛くなってしまった。ティーナには人間としては特殊な能力があり、自分が所属している社会にすんなり溶け込んでいるというわけではない。同居人とのやりとりや食事シーンに、この生活への違和感や相手との断絶が滲んていて薄ら寒く感じられた。そんな彼女の前に現れるのがヴォーレだ。彼女にとっては初めての仲間、自分と同種の存在で、同じようなものの感じ方、世界のとらえ方をできると実感できる存在だ。2人で過ごす中での彼女の高揚感や喜びが非常に鮮烈で瑞々しい。世界の見え方が変わるとはこういうことかと思わせる。
 しかし、新しく出会った世界にためらいなく同化(というか回帰)できるのかというと、そうではない。彼女は人間社会の中で育ち生きてきた存在だ。その社会の中でのルール、倫理がすでに自分の一部になっている以上、それを捨てて「彼」の理論、価値観に乗ることは倫理的にできない。彼の価値観は彼女のタブーなのだ。結局、どこに行ってもティーナは部外者であり、彼女は彼女として、ただ一人生きていくしかないということが浮き彫りになっていく。ヴォーレと共にあるときの高揚感・幸福感が強烈だったからこそ2人の間の越えがたい溝が痛烈なのだ。
 ティーナは一人きりではないという可能性が最後に提示されるが、その他者の存在は彼女を守ってくれるわけではなく、逆に足かせになるのではとも思える。この先の困難がうかがえるだけに、何とも辛いのだ。
 
ボーダー 二つの世界 (ハヤカワ文庫NV)
ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
早川書房
2019-09-19



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カーレ・ヘーデブラント
アミューズソフトエンタテインメント
2014-03-26