フランスの国民的大女優ファビアン(カトリーヌ・ドヌーブ)は『真実』という題名の自伝を出版する。出版を祝うために、アメリカで脚本家をしている娘リュミエール(ジュリエット・ビノシュ)は俳優である夫ハンク(イーサン・ホーク)と娘と共に帰省する。しかし自伝に書かれたエピソードは架空のもの、そして家族にとって重要なはずなのに書かれていないエピソードがあった。監督・脚本は是枝裕和。
 超豪華キャストだが、やっていることはいつもの是枝監督作品。車体はコンパクトカーなのにエンジン等はレーシングカー並みとでもいえばいいのか、ドヌーブとビノシュがいるだけでバランス感がおかしなことになっている。贅沢すぎるのだ。とは言え、ドヌーブはいつもの是枝監督作品における樹木希林的な役回りなんだなと見ているうちに腑に落ちていく。傍若無人だが可愛げがあり、周囲を振り回していくと同時に俯瞰している年配者という立ち位置。そういう意味でも「いつもの是枝監督作品」なのだ。字幕の文体が普段見慣れているものとちょっと違って(あまりに是枝作品ぽくて)違和感があったのだが、日本語の脚本をそのまま字幕に転用しているのだとすると、腑に落ちる。
 ファビアンヌは自身が女優であることを最優先しており、その振る舞いは妻、母である以前に女優としてのもの。彼女の「真実」とは女優としての彼女にとっての「真実」なので、彼女を母として見ているリュミエールにとっての「真実」とは食い違う。2人の気持ちが通じ合ったと思えるいいシーンの直後、突如「女優」として考え始める姿には笑ってしまうし、リュミエールの唖然とした表情を見ると気の毒にもなる。この人はそういう人だからしょうがないとあきらめるしかないのだ。
 ではリュミエールにとっての「真実」が全面的に正しいのかというとそうでもない。彼女の立場からは、ファビアンヌの女優としての部分、またある人物の友人・ライバルとしての部分はあまり見えていない。お互い自分の立場から見ているから記憶にも食い違いがあり、どちらが正しいとも判断できない。お互い様なのだ。真実はモザイク状だったり、レイヤーになっていたり、グラデーションがあったりする。本作における「真実」とは主観でしか語れないものなのだ。客観的な事実としてどうだったのかということは、ずっとはっきりしないままだ。ファビアンヌとリュミエールは常にちょっとすれ違い、全面的に重なり合うことはないままの関係なのだろう。ある程度理解はしあっているし愛情もあるが、相入れないのだ。ファビアンヌがリュミエールが「逃げた」ことについて、言及するシーンがある。親にこういう言われ方したらかなりきついと思う。ファビアンヌなりに配慮しているところがまたきついのだ。
 ファビアンヌがフィクションを体現する表現者であるなら、リュミエールはフィクションを作る脚本家という立場。終盤でのある意趣返しとでもいうような行為は、ファビアンヌが自伝を書く行為とあまり変わらないようにも思えた。

秋のソナタ Blu-ray
イングリッド・バーグマン
紀伊國屋書店
2013-12-21


海よりもまだ深く [Blu-ray]
阿部寛
バンダイビジュアル
2016-11-25