深緑野分著
 合衆国陸軍に特技兵、コックとして配属された19歳のティム。ノルマンディー降下作戦で初陣を果たすが、戦闘に参加しながら炊事をこなす任務はハードなものだった。冷静なリードー格のエド、陽気なディエゴらコック仲間と、戦地で遭遇したちょっとした謎の解明を気晴らしにするが。
 ティムは特に愛国心が強いわけでも軍人という職業に興味があったわけでもない。時代の空気に流されなんとなく志願した、ごく平凡な、どちらかというとぼーっとした青年だ。優しくお人よし、少々気弱で、到底兵隊向きとは思えないのだが、当時軍に志願した多くの青年はこういう、どちらかというと軍には場違いな人だったのかもしれないと思った。時代の空気って怖いよな…。戦争という非日常の中での「日常の謎」というわけだが、そのささやかな「日常」も徐々に戦争に飲み込まれていく。ティムと個性豊かな仲間たちとのやりとりは心温まるものだが、時に当時の社会背景が深く影を落としひやりとさせられる。ティム自身がその影を自覚していないこともあるのだが、エドが気付きを促すことも。ティムが世間知らずすぎな気もしたが、当時のアメリカの田舎から出てきた青年はこんなものだったのだろうか。ティムの地元の土地柄故に彼の心にひっかかる謎もある。この話はちょっとやりきれないものがあった。また、のんきな青年たちが戦場で過ごすうちに変化していく様も辛い。まだPTSDという概念がない時代が舞台だが、戦場での体験は確実に彼らを蝕んでいく。その中で非情になりきれないティムの性格は、甘さというよりも救いになっていくのだ。
 ある謎により、連作短編がはっきりと長編小説として立ち上がってくる。その謎は第二次世界大戦という状況下だからこそ生じたものだ。青春小説、日常の謎ミステリではあるが、やはり根底は戦争小説なのではないかと思う。戦争は人間に非人間的な行為を強いるということがそっと描かれているのだ。

戦場のコックたち (創元推理文庫)
深緑 野分
東京創元社
2019-08-09





世界の果てのこどもたち
中脇 初枝
講談社
2015-06-18