19世紀ロシア。貴族の娘サーシャ(上原あかり)は北極点を目指し行方不明になった冒険家の祖父を探すため、一人北へ向かう。監督はレミ・シャイエ。
 単純化されたフォルムによる画面構成が美しい。ちょっと切り絵のような味わいがある。近年の日本のアニメーションは、背景美術を精緻に、リアルにという方向性が強いが、それとは真逆の省略による洗練、デザイン性の高さが魅力。面と色のバランスが、特に北極圏に入ってからの氷原の描写が素晴らしかった。木版画の洗練にちょっと近いものがあるように思った。とても美しいと同時に、氷、寒さの恐ろしさも伝わってくる。
 サーシャは祖父の影響で、地図や航路の座標を読みこなし、各地の天候の知識もある。しかし「貴族の子女」である彼女に両親が求めるのは、良縁をつかんで一族の基盤を盤石にすることだ。彼女個人の能力や人格はさほど問題にされないし、そこは評価されるところではない。父親が「期待していたのに」というときの「期待」とは、そういうことなのだ。
 物語はサーシャの社交界デビューから始まる。これで大人の仲間入りということだが、一人前として扱われるというよりも、結婚相手の物色が始まる、「家」の道具として扱われるようになるということでもある。彼女の人生の方向性は決められてしまうのだ。サーシャの旅は、祖父を探し彼の名誉を回復するためであると同時に、サーシャ自身の人生をつかむ為のものであもる。旅の中で個としての力をつけ彼女は成長していく。酒場の女将(自立した女性としてサーシャを導くいいポジションだった)や船乗りたちに鍛えられてどんどんたくましくなっていく姿は頼もしくりりしいが、元の生活に戻った時、その力はどうなるのだろうとも思った。彼女の力を生かせる場はあるのだろうかと。元々所属していた世界に、もはや彼女の居場所はなくなってしまうのではないか。サーシャのような人は、あの時代どうすれば力を活かせたのだろうか。彼女の人生のその先が気になった。

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた [Blu-ray]
デヴィッド・ロウル
TCエンタテインメント
2017-04-05