経済的に行き詰ってうらさびれた、ハンガリーのとある村。死んだはずのイリミアーシュが村に帰ってくるという噂が流れ始める。村人たちは彼が現状を変えてくれるのではと、期待と不安に駆られる。彼は救世主なのか詐欺師なのか。原作はクラスプホルカイ・ラースターの小説。監督・脚本はタル・ベーラ。
 438分という超長尺かつ全約150カットという長回しの連打。だいぶどうかしている、なぜやろうと思った⁈というくらいの力業だが、無理やり感がない、かつエネルギーが途切れないところがすごい。全12章から成る構成は、一見ゆるゆると進むようでいて、あの時実はこういうことが、というパズルのような部分もある。意外とタイト(というには上映時間的に語弊があるんだけど…)だ。モノクロ映画なのだが、4Kデジタルレストア版だと非常にクリアで美しい。白黒なのにどことなく色づいて見えてくるのが不思議だ。
 不思議といえば、構成も撮影も厳密に練りこまれていると思われる(でないとあんなに長回しばかりできないだろう)のに、大雨の後のシーンなのに地面が乾いていたり、ナレーションでは暗闇と言っているのに映像は昼間のようだったりと、整合性のないおおざっぱなところもある。どこを精緻にしてどこをおおらかにするのかという判断基準が見えそうで見えない。
 長時間という体力的な負荷よりも、精神的な負荷の方がきつかった。とにかく精神を削られる。冬の雨が降り続き、町へ出るバスもなくなり、経済も人間関係もどん詰まり、どうにもならない世界なのだ。降り続く雨には世界の終末の気配さえ漂い、神話的な雰囲気が濃厚なのに、どうかすると泥臭くちっぽけな人間同士のいさかいや欲が転がりだす。壮大さと卑小さが同居している。いわゆる人間固有の美点とされるもの、知性や倫理、理性や善良さといったものにあまり信頼をおいていない(本作のような作品を作るという点で観客の知性・感性は信用しているんだろうけど)作品内世界なので、なんとも気が滅入る。気が滅入る話を大変な強度と美しさで見せてくるので破壊力がなんだかすごい。

ニーチェの馬 [DVD]
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紀伊國屋書店
2012-11-24





Satantango
Laszlo Krasznahorkai
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2013-07-04