ベル・エポック期のパリ。ニューカレドニアからやってきた少女ディリリ(プリュネル・シャルル=アンブロン)は配達人の少年オレル(エンゾ・ラツィト)と共に、パリで起きている少女誘拐事件に挑む。監督・脚本はミッシェル・オスロ。
 アニメーションの魅力は動き、動き方をどのように表現するかという点にあると私は思っているが、本作は決して「動き」のアニメーションではない。ではアニメーション固有の魅力がないのかというとそんなことはなく、アニメーションならではの魅力がふんだんにある。動きで魅せる活劇としてのアニメーションとは発想の起点がちょっと違っており、そこが面白い。リアルなパリの風景を、きり絵のように単純化されたアニメーションの人物が駆け抜けるというコントラストの妙がある。キャラクターの動き自体にはそれほど面白みはないのだが、画面全体がひとつの絵としての美しい。当時のパリの風景を様々な角度から見せる、観光映画のようでもあった。ディリリとオレルは三輪車でパリを駆け抜け、とても爽快なのだが、他にも馬車、ボート、飛行船等乗り物が次々と登場する。乗り物によって目線の高さや移動ルートが違うので、風景にバリエーションがあって楽しい。衣装の色合いのビビッドさも美しかった。
 パリの風景だけではなく、学者や芸術家等、歴史上の人物たちが次々と登場する。有名な絵画作品に描かれた風景がそのまま再現されていたりもする。ムーラン・ルージュで画家ロートレックと出会う時には、舞台の上も客席でも、彼の作品に登場した人たちがその姿で現れるので嬉しくなった。ロートレック本人もディリリと一緒に三輪車に乗る姿がきゅーとなのだが、ドガに作品を褒められて喜ぶ姿もまた微笑ましかった。
 ディリリ達の敵は明確に性差別主義者たちだ、女の子も自由に学び生きる権利があるということをディリリが体現しており彼らにNOを突き付けるわけだが、いまだにこれを言わないとならない世の中だというのが何とも辛い(作品の舞台は19世紀だたそのメッセージは現代の私たちに向けられているわけだから)。一方、本作の冒頭で、ディリリは「未開の民族」として、アトラクションの一部になっている。パリ万博では実際に様々な地域の先住民を見世物として「展示」(展示の中に現地の住居を再現し生活させ、来場客に見せる)していたそうだが、これは彼らを「未開人」として見世物扱いしている、同等の人間としては扱っていないということになるだろう。先住民とフランス人の間に生まれたディリリは、宣教師によりヨーロッパの教育を受け「文明化」されたというわけになる。確かにディリリの世界は教育により広がったわけで、宣教師としては彼女を「野蛮から救い出した」という意識があるのだろう。とはいえ、彼女のバックボーンはヨーロッパ側からは無視されたままなのでは。そこにある差別には本作は言及していない点にはひっかかった。

アズールとアスマール [Blu-ray]
シリル・ムラリ
スタジオジブリ
2007-12-19





世界を変えた100人の女の子の物語
エレナ・ファヴィッリ
河出書房新社
2018-03-24