第二次大戦後のフィンランド。帰還兵のトウコ・ラークソネン(ペッカ・ストラング)は広告会社でイラストレーターの仕事をしつつ、自分の為だけにたくましくセクシーな男性の絵をスケッチブックに描き続けていた。当時のフィンランドでは同性愛は法律で禁止されており、ゲイであるトウコは自分のセクシャリティを明かすことも、公の場でパートナーのヴェリ(ラウリ・ティルカネン)との関係を明かすこともできなかったのだ。トウコは作品をアメリカに送るようになり、雑誌の表紙に起用されたことがきっかけで、世界中でその作品は評判になっていく。監督はドメ・カルコスキ。
 本名で作品を発表できないトウコのペンネームが「トム・オブ・フィンランド」。実在したゲイアートの先駆者、トム・オブ・フィンランドの伝記映画だ。フィンランドでは法的に同性愛が禁止されているため、アメリカに作品を送って売っていたわけだが、トウコがあずかり知らぬところで彼の絵がどんどん知られるようになり、ゲイの人々の間で愛されるように、また彼らをエンパワメントするようになる。その流れを作家当人は全然知らないままだったという所に時代背景を感じた。ファンの招きにより渡米して初めて、トウコは自分の作品がどのように受けいられているのかということ、そして作品に勇気づけられた人たちがいることを知る。このエピソードはアートの持つ力、役割を感じさせ感動的ではあるのだが、同時にヘルシンキとカリフォルニアとの状況が違いすぎて辛くもある。同じ時代であっても生まれた場所が違うだけでこんなに自由の度合いが違うのかと。カリフォルニアで警官の振る舞いを見たトウコの表情が何とも言えない。トウコにとって警官は自分を迫害し痛めつけるもので、礼儀も尊重もなかったのだから。
 トウコの戦時中の体験と、戦後の生活、そして晩年とを行き来する構成で、彼の人生を追っていく。また同時に、彼の作品がどのように受容されていったのか、ゲイ社会がどのように変化していったのかという社会背景も映画いている。トウコが初めて渡米した頃は解放感に満ちていたのに、エイズの発症が確認されるようになると同性愛者差別が加速し、また時代が逆行したようになっていく。同性愛が法に触れなくなった後も、トウコはヴェリと外で手をつなごうとしないし、「ゲイっぽい」振る舞いをすることに抵抗があるように見えた。妹にも自分とヴェリの関係をちゃんと説明していたのかどうか、はっきりしない。職場でヘテロっぽさを強調するあまりちょっと女性へのセクハラっぽくなるあたりはいただけなかった。トウコ自身はかなり保守的というか、ゲイに対する差別と闘うといった意欲は長らくなかったように見える。長い間そういったことが禁じられていたから、隠すことが習い性になってしまっていたというのもあるだろう。彼の意識がちょっとずつ変わっていく過程を描いた物語でもある。終盤、カーテンにまつわるエピソードにはちょっとほろっとしてしまった。あの時無理だと言っていたことが、ちゃんとできるようになっているじゃないかと。時代は確実に変わるのだ。
 彼の作品はゲイの人々をエンパワメントするものだったが、作者当人はなかなか自由にはなれなかった。作品の方が作家よりも早く遠くに行けた、作家当人にはその自覚がずっと希薄だったところが面白いし、皮肉でもある。それがアートの面白さなのかもしれない。