ゴールドラッシュに沸き立つアメリカ。腕利き殺し屋兄弟のイーライ・シスターズ(ジョン・C・ライリー)とチャーリー・シスターズ(ホアキン・フェニックス)は、政府から内密な依頼を受け、黄金の見分け方を発明したという化学者ハーマン・カーミット・ウォーム(リズ・アーメッド)を追う。連絡係のジョン・モリス(ジェイク・ギレンホール)からの手紙を頼りにウォームの後を追うが、事態は予想外の方向へ。原作はパトリック・デウィットの小説『シスターズ・ブラザーズ』、監督はジャック・オーディアール。
 原作小説よりもむしろ『シスターズ・ブラザーズ』という題名に合った内容のように思ったが、映画邦題がそうではないのは皮肉。ゴールデンリバーからはむしろ遠のいているような気がするんだような・・・。ともあれ、自分にとって原作で不発だった部分が映画では上手く補完されており、面白かった。
オディアール監督は「つかの間の夢」みたいなものを扱うストーリーに拘りを持っているのかなと思った。理想主義的な ウォームのコミューン構想にモリスが引き込まれていくのも、4人がやがてひとつの共同体のようになっていくのも、つかの間の夢だ。シスターズ兄弟の「無敵の殺し屋」という肩書自体がつかの間の夢のようなものかもしれないが。監督のほかの作品でも、この一瞬がずっと続けばいいのにというような、多幸感あふれる瞬間がしばしば見られる。が、それはつかのものでありいずれ終わるのだ。
 とはいえ、シスターズ兄弟にとっては、廻り廻ってあったはずのものを取り戻す、父親によって奪われた安心感、脅かされずに日々を過ごす場に辿りつく話でもあるから、オディアール監督、少し優しくなったのだろうか?父(的なもの)を殺し、あるいはそういうものを捨て逃げ続ける男たちの姿はしんどそうでもある。逃げ続けるということは、一か所に留まれないということだ。とはいえ、父親なんていずれ死ぬからな!と言わんばかりのいうドライさがあり、いっそユーモラスでもあった。そこ戦うところか?という問いかけのようでもある。
 シスターズ兄弟の密着していたい/離れたいというジレンマがつのる一方、モリスとウォームは密着したいがしてはいけないというジレンマに苛まれる。ウォームの「友達になりたかった」という言葉が切ない。双方あそこまでやったらもう友達決定でいいのに!また、イーライは意外と繊細でよく者を考えており、モリスとウォームとも通じ合う部分がある(当時としては「おしゃれ」だったらしい歯ブラシを使っていることで、なんとなくイーライとモリスの距離が近づくのがおかしい)。そこにチャーリーはなかなか交ざれず、殺し屋から足を洗いたいというイーライの希望も受け入れられない。だが4人の間には危ういバランスが保たれる。彼らを取り込んだのは黄金の夢ではなく、共同体という夢だったようにも思った。
 西部劇だが、この時代のテクノロジーがどのくらい進んでいたのか、生活文化の様子が垣間見られるところが面白かった。前述した歯ブラシの登場や、イーライがホテルの水洗トイレに驚いて思わずチャーリーを呼んだり、路上駐車している馬車からおそらく冷蔵庫用の氷が荷降ろしされるシーンがあったりと、細かい所がなかなか物珍しかった。

シスターズ・ブラザーズ (創元推理文庫)
パトリック・デウィット
東京創元社
2014-12-12






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KADOKAWA / 角川書店
2016-07-08