ドニー・アイカー著、安原和見訳
 1959年、ソ連のラウル山脈で奇妙な遭難事故が起きた。大学生らからなる9人の登山チームは、テントから1キロ半近く離れた場所で、凄惨な死にざまで発見された。氷点下の中でろくな防寒具や靴を身につけず、服からは異常な濃度の放射線が検出された。いまだに真相不明な事件に、アメリカ人ドキュメンタリー映像作家の著者が挑む。
評判通り面白い!そして不可解!事件の謎解明は、これが正解かどうかは実際のところわからないが、そこそこ妥当なものが終盤でばたばたと説明される。著者が提示する回答は、事件が起きた当時は(作中で指摘されるように)概念としてまだなかったものだ。だからこそ政府や軍の陰謀論、はたまたUFO論などが沸き起こったのだろう。
  とはいえ、本作の面白さは、遭難した登山チームの道筋を丁寧に追った所にある。チームの登山経路を実際に体験することによる、街の様子や自然の描写により、より具体的な景色が見えてくる。更に、チームメンバーがそれぞれどういう人柄でどういう言動をとって何を考えていたのか、周囲とはどういう関係だったのか、人物像が立ちあがってくる。若者たちの群像劇としての描写がとても生き生きとしており、だからこそ事件の痛ましさがまた切実なものになる。
 著者自身が作中で自省するように、自分とまったく関係ない、過去の異国の事件に現地で不慣れな登山に挑戦する(これ本当に無謀だと思うんだよな・・・登山経験がろくない上に言葉も通じないんだから・・・)ほどに入れ込むのは、解けない謎に対する下世話な好奇心とも言える。ただ、亡くなった人たち、そして遺族の人間像をしっかりつかみ描くことが、本作の誠実さになっていると思う。