訪問介護士の市子(筒井真理子)は周囲からの信頼も厚く、特に本門先の大石家の長女・基子(市川実日子)には懐かれていた。ある日、基子の妹サキが行方不明になる。すぐに保護され犯人も逮捕されるが、市子は事件への関与を疑われる。マスコミが押し寄せ、職場を追われ恋人との結婚も破談になった市子は、ある行動に出る。監督・脚本は深田晃司。
 試写で鑑賞。以前見た同監督『淵に立つ』はいまいち頭でっかちというか、映画の枠組みばかりが前面に出ていた印象を受けたが、本作はすごく面白かった。最初から不可解なものが登場しとにかくずっと不穏であるという点は共通しているが、本作の方が不可解さが地に足のついたもののように思った。
 一見、市子の物語であるように見えるが。実はその物語は基子の物語と鏡合わせになっている。市子にとっては、自分には預かり知らない基子の情念に振り回され、それまでの人生を失うわけで、全くわけがわからないし基子の在り方は不可解なものだろう。しかし、基子にとっては憧れの人があっさり結婚して自分から離れていくということが不可解で許せない。そして許せないという自分の情念も、それ故に行ってしまった行動も不可解なものだろう。お互いの情念と不可解さが時間差で空回りしているという構造なのだ。市子が「復讐」に走ったのは当時の基子からしたら本望かもしれない。自分の存在が彼女にそれだけの跡を残した、自分が彼女にとって忘れられない存在になったということだから。とはいえ、市子の「復讐」が成立した時点で基子が彼女をどう思っていたのかはわからないので、これもまた空回りかもしれないのだが。
 筒井の演技、存在感が強靭。地味な時は本当に地味なのにぶわっとなまめかしさが溢れる瞬間がある。それを受ける市川の胡乱さとキュートさが入り混じる存在感も相変わらず面白い。この2人の実力を実感できる作品だった。

よこがお
深田 晃司
KADOKAWA
2019-07-19






淵に立つ(通常版)[DVD]
浅野忠信
バップ
2017-05-03