東都新聞の記者、吉岡(シム・ウンギョン)は、社に匿名で送られてきたFAXを目にする。それは医療系大学新設計画に関する極秘文書だった。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原(松坂桃李)は、現政権に不都合なニュースをコントロールする職務に疑問を持っていた。外務省時代の元上司・神埼(高橋和也)と久しぶりに会い喜ぶものの、数日後、神埼は自殺する。彼を自殺に追い込んだものは何だったのか、神埼は自分が所属する組織の暗部に気づいていく。原案は望月衣塑子の同名著作。監督は藤井道人。
 メディアは権力を監視する為にあると言う矜持を持ち続け、「自分を一番信じ疑え」という父が残した言葉に従い続ける吉岡の一本気が胸を打つ。彼女は日本人の父親と韓国系の母親を持ちアメリカで育ったという、日本では「異物」として扱われる存在。だからこそ、この国のいびつさ、危うさを客観的に見ることが出来る。
 一方、杉原は与えられた任務に疑問をもつことがない内閣情報調査室において、ごくごく普通の感覚、倫理観や正義感を持ち続ける。その普通さが彼を組織からはみ出た存在にしていき、彼を苦しめるのだ。組織の特殊性、組織の論理に染まらずにいられるかという部分は、どんな人にも心当たりがある、なかなか耳の痛い部分ではないだろか。ただ、昨今の世の中を見ていると、本作における内閣情報調査室が掲げる論理に、世間の論理が近づいてきているような気がして怖い。内閣情報調査室の論理は国や国民を守る為のものではなく、現政権の利益を守る為のものにしか見えないのだが、自分達を圧迫していくものの為に奉仕してしまう現象、何と名づければいいのか・・・。汚職にまみれた政権でも安定している方がいいのか、安定の為には非合法・非倫理的な手段をとってもいいのかといったら、いいわけないと思うんだけど。作中、「この国には本物の民主主義は不要だ」とまで言われてるんだけど・・・。でも、近年の日本社会を見ると民主主義の根付いてなさに茫然とすることが多いのは確かだ。
 本作に対し社会批判、政権批判をよくやった!という声が多いようだが、どちらかというと社会派と言うよりも王道のサスペンスとしての側面の方が強いように思った。むしろ、この程度で社会批判、政権批判をうたったことになるのかという拍子抜け感の方が強い。時事ネタを取り入れていくのはエンターテイメントとしては定番で、本来ならテレビドラマ等でもっとタイムリーにネタにしてもよかったことだと思う(本当に『相棒』の2時間SPとかでやりそうな話なんだよね)。それすらためらわれる空気があるなら、それこそ民主主義死んだということになるのでは。

新聞記者 (角川新書)
望月 衣塑子
KADOKAWA
2017-10-12






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