チョン・ユジョン著、カン・バンファ訳
 大学生のユジンは自室で目覚めたが、全身血まみれなことに気づく。床の血痕を辿ると階下には喉を切り裂かれた母親の死体が横たわっていた。ユジンは時々発作による記憶障害や幻覚があり、昨晩の記憶もない。母親が自分を呼んだことはかすかに覚えているがが・・・。彼女を殺したのは自分なのか?
 ユジンがいわゆる「信用できない語り手」として昨晩の記憶、そして子供の頃の記憶から現在に至るまでを辿り、はたして何があったのか、記憶のピースを埋めていく。ユジンの主観は偏っており、彼自身が意図せず物事を正確に見えていない、かつ発作薬の副作用で頻繁に幻覚を見る。これは彼の思いこみなのでは?という疑惑が常につきまとうのだ。彼がどうしてこうなったのか、「彼」がどのように目覚め、完成したのかという話なのだが、ユジンの意識の曖昧さ故に、真相判明したとされるラストまで、今一つすっきりしない。「彼」は自分の行動を計算しきっているようでしきれていない、コントロールできていないのだ。そういう意味ではサイコパスとしては不完全。ただある「種の起源」ではあるのかもしれない。

種の起源 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
チョン・ユジョン
早川書房
2019-02-06





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2015-12-16