冷戦下、ソ連占領地帯のポーランド。歌手を目指し歌劇団に入団したズーラ(ヨアンナ・クーリク)とピアニストのヴィクトル(トマシュ・コット)は激しい恋に落ちる、しかしヴィクトルは政府に目をつけられるようになり、パリへの亡命を決意。ズーラに同行を願うが、待ち合わせ場所に彼女は現れなかった。やがて歌劇団の公演先で再会した2人は、お互いの気持ちに変わりがないことを確認するが。監督・脚本はパヴェラ・パヴリコフスキ。
 試写で鑑賞。モノクロの映像がクールで美しい。また、ズーラが歌手なだけあって音楽映画としてもいいのだが(監督がジャズ好きらしく、ジャズの選曲がいい)、彼女が歌うポーランドの歌曲「2つの心」が何度も違うアレンジで繰り返される。アレンジの違いが、ズーラとヴィクトルの関係の変化と重なっていくようでもあった。一番最初のシンプル、素朴なバージョンにはもう戻れないというような寂しさがまとわりつく。
 ズーラはヴィクトルの亡命についていかなかった理由を、「(自分が)まだ未熟で全てあなた(ヴィクトル)に劣っているから」だと言う。ヴィクトルにはこの理由はぴんとこなかったみたいだが、彼女の人となりをよく表わした言葉だと思う。相手に自分の全てをゆだねるのが嫌というか、イニシアチブを一方的には取られたくないのだろう。同じ熱量で向き合う関係、2人で同じ方向を見ることを強く求めているのだと思う。対等でありたいのだ。だからヴィクトルが音楽プロデューサー目線で君にはこの曲がいい、この歌詞がいいと指導するとカチンとくる。彼女が彼に求めているのはそういうことではないのだが、よかれと思ってやっているヴィクトルにはそこがわからないので、2人はすれ違い続ける。すれ違いつつ強く深く愛し合うという奇妙な関係を10数年間にわたって描くという、なかなかしんどいロマンス映画だ。しかし思いが深すぎてまともな関係(と世間的にみなされるような関係)に落とし込めない2人の在り方は胸に響く。
 作中時間は10数年にわたる大河ドラマなのだが、映画自体は90分程度と短い。経過する年数の省略の仕方が思い切っており、省略された部分が多々あることで2人が経た時間、そして彼らの背後に流れる歴史としての時間の経過がより際立っていたように思う。コンパクトな編集が良かった。

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