ブルックリンでレコードショップを営むフランク(ニック・オファーマン)は店を閉めることにした。娘のサム(カーシー・クレモンズ)は医者を志しUCLAへの進学が決まっているので、いい頃あいだと考えたのだ。しかしフランクがサムを一緒にレコーディングした曲をネットにアップロードしたところ予想外に人気が出て、レコード会社からも声がかかる。かつてバンドマンだったフランクは浮かれるが。監督・脚本はブレット・ヘイリー。
 フランクはシングルファーザーとしてサムを育ててきたが、どこか子供っぽい。今ではサムの方が地に足がついて大人っぽく見える。自分たちの曲が注目されたことに対しても、ツアーはどこにいこうかなんてはしゃぐフランクに対して、サムは進学の準備に余念がない。進学を1年延ばせないかと言いだす父親に彼女がキレるのも無理はないのだ。入学は決まってるし奨学金だって受けている、何よりフランクの都合で振り回されてはたまらないだろう。彼女も心底音楽好きで、多分フランクよりも音楽の才能はあるので心が揺れないわけではない。それでも彼女が選らんだ道があるのだ。
 フランクのふるまいはなかなかイラっとさせられる所があるのだが、ぎりぎりで嫌な感じにはならない。子供っぽいが父親としての役割はちゃんと果たしてきた、親として役割を果たすため、断念しなければならないことがあると受け入れてきた様子が垣間見られるのだ。更に、彼がサムにはサムの人生があり、フランクとは別の意思をもっていること、彼女の選択を尊重しなければならないということを本当はわかっているからだろう。同じものを愛していても、2人は別の人間なのだ。
 2人が歌う歌の歌詞にもあるように「大切なものを置いて」旅に出ることは、決して悲しいことではない。これは親子の間だけではなく、サムとガールフレンドのローズとの関係において同じだろう。愛し合うことと、共にいることは必ずしも一致しない。それぞれ別の人格、別の生き方だというスタンスが一貫している。
 音楽に溢れた作品で既存楽曲の使い方も良いのだが、特にライブシーンの多幸感が素晴らしかった。クレモンズのパフォーマンスが本当にチャーミングで見ていて嬉しくなる。また、まさかトニ・コレットのカラオケを聞けるとは思わなかった(上手い!かわいい!)ので得した気分になる。

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