鎌倉から京都・嵐山にやってきたノンフィクション作家の平岡衛星(井浦新)は、京福電鉄嵐山線、通称嵐電にまつわる不思議な話を収集している。修学旅行生の南天(窪瀬環)は、嵐電を撮影していた少年・子午線(石田健太)に一目ぼれする。地元の食堂で働く小倉嘉子(大西礼芳)は、東京から来た俳優・吉岡譜雨(金井浩人)の方言指導を頼まれる。監督は鈴木卓爾。
 路面電車である嵐電はやはり絵になる。日常の交通手段としても、異界へ繋がるものとしても、大切な人を連れ去ってしまうものとしての嵐電の存在感が作品の核にある。舞台装置の選び方でほぼ勝っているのでは。そのくらい雰囲気がいい。
 3組の男女が登場するが、どの関係もどこかおぼつかない。妻を見失っている平岡、一方通行の思いをぶつける南天と戸惑う子午線、そしてほのかな思いを寄せあうが先が見えない小倉と吉岡。狐と狸が乗った嵐電に乗った2人は二度と会えないという都市伝説が作中出てくるが、狐と狸に出会わなくても彼らはもう会うことはないのではというあやふやさがある。強い思いはあったとしても、自分は相手の何を見ていたのか、相手は自分の何を見ていたのかがわからなくなっていく。
 この世とあの世、異界を繋ぐやり方、ファンタジーの取り入れ方(というかこの世と同じ地平で推移している感じ)が鈴木監督は上手い。音楽にも味わいがあった。歌が異界への入り口のようで、一気にファンタジックになる。あがた森男の主題歌も乾いているが哀愁漂う。

ゲゲゲの女房(新・死ぬまでにこれは観ろ! ) [DVD]
吹石一恵
キングレコード
2016-08-03





私は猫ストーカー [DVD]
星野真里
マクザム
2009-12-25