フェリシア・ヤップ著、山北めぐみ訳
 ケンブリッジの川でブロンドの女性の死体が発見された。被害者の日記によると、彼女は著名な作家マーク・ヘンリー・エヴァンズの愛人。しかしエヴァンズは彼女は単なるファンの一人で日記の内容は誇大妄想だと主張する。
 一見男女関係のもつれが絡んだありきたりなミステリだが、ある設定によりひねりが加えられている。作中世界では、記憶が1日で失われるモノ、2日で失われるデュオの2種に人間が分けられている。そのためiDiary(スティーブ・ジョブズが発明したんだって・・・)に毎日日記を記録し、それがその人にとっての過去の記憶になる。SF的な設定を加えた、特殊条件下ミステリと言える。日記に書かなかったことはなかったことになってしまうし、他人によって日記を書きかえる=記憶を改ざんすることも可能だ。日記の内容は基本的に「信用できない語り」となるし、その日記に基づき考え行動する人たちの言動もまた信用できない。どこまでが本当でどこが嘘なのか?誰が誰に罠をしかけたのか?という二重三重の謎がある。こういう条件の中で容疑者たちがどのように行動するのか、警察はどのように捜査していくのか(何しろ記憶があるうちに解決しないと案件の難易度が一気に上がる)という部分も面白い。
 デュオとモノの間にある記憶格差とでもいうべき差別意識や、長期記憶があったら世界は悪化する(恨みや怒りを維持することになるから)と考えられている等、背景設定が本作のポイント。記憶があるというのは大きなアドバンテージにもなるし人を狂わせることにもなる。ただ、終盤でいきなりトンデモ度が上がるんだよな・・・。やりたくなるのはわかるんだけど、ちょっと盛り過ぎでは。

ついには誰もがすべてを忘れる (ハーパーBOOKS)
フェリシア ヤップ
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2019-02-16