重い病に冒されていると告げられた死期を悟ったギャングのロイ(ベン・フォスター)。ボスに命じられある仕事に向かうが、それは彼を切り捨てる為の罠だった。ロイは組織の人間を撃ち殺し、その場にいた娼婦ロッキー(エル・ファニング)を連れて逃げる。ロッキーはまだ少女だが頼れる人もなく、体を売って生活していた。なりゆきで見ず知らずの2人の逃避行が始まる。原作はニック・ピゾラット『逃亡のガルヴェストン』、監督はメラニー・ロラン。
 メラニー・ロランは役者としてだけではなく監督としても腕がある。ちょっとごつごつしたぎこちなさはあるのだが、抑制がきいてる好作だった。原作小説の消化の仕方にセンスのよさを感じた。原作はどちらかというと古風な男性のロマンティシズムが強かったように思うが、映画はロマンティシズムの方向がちょっと変えられている。性愛の要素が薄い、もっと広義の愛が描かれているように思った。男性に仮託されたナルシズムが薄い。女性はファム・ファタールではないのだ。自分よりずっと若い相手に手を出す大人はろくなもんじゃないぞ、まともな大人はそういうことをしないんだと示しているあたりも現代的。
 冒頭、病院での行動が、ロイがどういう人間なのか、すごくわかりやすく表わしている。自分の問題、恐れと直面できない弱い面があるのだ。さすがに診断は聞けよ!って思ってしまう。元恋人に会いに行くのもけじめというよりは逃避行動に見える。元恋人の塩対応は、彼の現実認識の甘さを突き付けるようでもあって苦い。
そんなロイがロッキーの為に逃げることをやめ立ち向かおうとする。ロッキーは自分の身を守る為にあるものから逃げ出したが、自分以外のものを守るために立ち戻り対決する。ロイがトラブルを呼び込むであろう彼女を見捨てられなかったのは、彼女の対決しようという意思を見てしまったからではないかとも思った。

逃亡のガルヴェストン (ハヤカワ・ミステリ)
ニック・ピゾラット
早川書房
2011-05-09





ミステリアス・ショーケース (ハヤカワ・ミステリ)
デイヴィッド・ゴードン
早川書房
2012-03-09