アメリカ女性最高判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグ。ジェンダーによる差別と闘い続けた彼女の生涯を追うドキュメンタリー。監督はジュリー・コーエン&ベッツィー・ウェスト。
 この人がいなかったら、男女間の不平等は今頃どうなっていたか、というくらい功績があるギンズバーグ。精神的にも肉体的にも非常にタフな人というイメージがあるし、実際に体力を維持するためのメンテナンスと努力を欠かさない様が作中でも見受けられる。私より全然ちゃんと腕立て伏せ出来てる・・・。
しかし本来は、若い頃から物静かで引っ込み思案、必ずしも外向的、尖鋭的というわけではないというから意外だった。彼女のガッツ、闘志は生真面目さ、勤勉さから生まれるもののように思える。弁護士事務所への就職を軒並み断られた(彼女の伝記映画『ビリーブ 未来への大逆転』でも描写があった)時に「なぜ女性が弁護士になれないのか理解できなかった」というのだが、真面目に考えるとそれが理にかなっていない、不条理だから理解できないというわけだろう。理屈が通らないというのは、世の中や現行の法律の方がずれていて、そこを変えていくことが時に必要なのだ。ギンズバーグが「200年前に作られた法律の「我々」に私たちは含まれていない。黒人もヒスパニックも。」と言う。その時代ごとの「理屈」はあっても、背景となる時代の価値観からは逃れられないのだ。
 法解釈や主義主張が違う人とでも、その他の部分で気が合えば親しく付き合うという所も面白い。超保守派の判事と意外と仲がいいのだ。仕事とプライベートとの切り分けがはっきりしている。このスイッチの切り替え方が仕事が長続きするコツなのかもしれないとも思った。
 夫との関係性が理想的だ。こういう人と支え合っていたからここまで来られたのかもしれない。それだけに、夫の晩年になってからの病から目をそむけていたという孫の言葉が切ない。あんなに強い人でも、そこは直視できなかったんだと。夫マーティンはギンズバーグの知性、法律家としての能力を非常に高くかっており、自分のパートナーとして自慢に思っていた様子。彼自身も法律家(税務専門の弁護士)だったが、「2番手であることを気にしない」人だったとか。妻の知性を手放しで評価できる、自分よりも高くかうというのは当時の男性としては稀な資質だろう。映像からも人柄の良さが垣間見られた。
 それにしても、アメリカの現状を思うとギンズバーグはおちおち引退できないだろうな・・・。必要とあれば保守とも妥協し、最高判事間のバランスを取るためより保守にもリベラルにも方向修正する人だそうだが、相当リベラルとして頑張らないと現状ではバランスとれなさそう・・・。